7月10日から始まる!遺言書保管制度はつかえるか?!

1 ついに始まる自筆証書遺言書保管制度!

 令和2年7月10日から、自筆証書遺言書を法務局が保管する制度が始まります。

これは同日から、”法務局における遺言書の保管等に関する法律”(条文はコチラから)が施行されることによるものです。

 

法務省のHPでも、

「7月10日から開始します!預けて安心!自筆証書遺言書保管制度」と題して、新しいページが公開されています。

 

この制度の詳細は、こちらの法務省のHPから確認できます。

 

また、申請書等の様式も法務省のHPで公開されています。申請する際には、事前に管轄の法務局への予約が必要ですが、

オンラインでの予約か、窓口または電話での予約が必要です。

オンラインでの予約は、コチラの予約ページから!

 

ここでは遺言書と言うものの意味から解きほぐして、わかりやすく解説をしてみたいと思います。

 

2 法定相続分の意味と遺産分割協議

 そもそも相続とは、被相続人となるある方が亡くなりになった場合に始まります。

 その時点でその方が持っていた全てのプラスの財産(不動産・預貯金・株式・貸付金などの債権・自動車や骨董品など)とマイナスの財産(銀行などからの借入金・治療費などの未払費用など)が相続財産となります。

 

 これを相続人となる方が取得することになるわけです。

 相続人となるのは、まずは配偶者です。配偶者プラス、子がいれば子が、いなければ親が、親も亡くなっていれば兄弟姉妹が相続人となります。その場合、相続すべき割合は法律で決まっています。これが法定相続分と言うものです。配偶者と子の場合は1:1、配偶者と親の場合は2:1、配偶者と兄弟姉妹の場合は3:1となります。配偶者は常に1人ですが、子・親・兄弟姉妹は複数おられる可能性があります。その場合は上記比率に基づく相続分を頭数で割ることになります。

 つまり、配偶者と子が3人いれば、配偶者は2分の1、子1人あたりは6分の1ずつとなります。配偶者と兄弟姉妹が5人いれば、配偶者は4分の3、兄弟姉妹1人あたりは12分の1ずつとなります。

 

 特に何も用意をしなければこのような法律で定められた割合に基づいて相続することが原則になります。とはいえ、実際にどの相続人が何を相続して取得するかは法律上は何も決まっていません。相続財産としてどのようなものがあるかもケースバイケースです。そのため、法定相続分を念頭に置きつつも、実際には相続人らで誰が何を取得するかを協議して合意をまとめなければいけません。これによって初めて誰が何を取得するのかが確定するのです。これがいわゆる「遺産分割協議(書)」です。

 

 ただ、現実には法定相続分通りに取得させることが被相続人の生前の意向通りとは限りません。また、相続財産が預貯金や現金ばかりであれば良いのですが、実際には不動産などもあり、分け方について遺産分割協議も難航します。

 さらに、ここでは説明を省略しますが、相続人の1人が生前すでに多額の財産を譲り受けていたからそれを差し引くべきだ(特別受益)とか、自分は被相続人と一緒に事業をしていて財産を増やすのに大きな貢献をした、あるいは、毎日いつもそばで介護していた(寄与分)とか、相続人の1人が被相続人の財産を引き出して、自分のために使っているとか、分割するにあたって不動産をどのように評価するのか、など様々な論点が出てくる可能性があります。

 

 これらを事前に一挙に解決しておく方法こそ、遺言書です。

 有効で適切な遺言書があれば、このような「争続」と揶揄されるような複雑な紛争を予防することができるのです。

 

3 遺言書の効力と有効な方式

 被相続人が生前にあらかじめ、有効で適切な遺言書を作成しておけば、相続人たちの不毛な争いを防ぐことができます。

 では有効な遺言書とはどのようなものでしょうか。

 

 主に、①公正証書遺言と②自筆証書遺言があります。

 

 ①は、事前に法律に詳しい公証人と内容を調整した上で、2人以上の証人の立会いのもと、公証役場において、本人確認の上で作成し、公証人が原本を補完するものです。この方法で遺言書を作成する場合、事前に内容の調整や公証人への数万円程度の手数料、必要に応じて弁護士等へ依頼する場合の費用などの負担はかかりますが、基本的に有効で適切な内容を残すことができます。

 

 これに対して、②は、法令上のルールさえ守れば、いつでもどこでも紙に書いて作成することができるもので、自分で書く限り費用はかかりません。手軽に作成でき、時間が経って、内容を変えたい場合もすぐにできます。ただ、問題としては、法令上のルールを守り切れていない場合に無効となったり、保管が十分でなく、破棄されてしまったり、改ざんされたりするリスクがあります。また、被相続人が亡くなった後、遺言書の状態を公的に確認する必要があるため、家庭裁判所において検認という手続きを取っておく必要があります(公正証書遺言の場合は不要です)。

 なお、自筆証書遺言が有効になる法令上のルールとは、❶遺言書本文が全文自筆(手書き)であること、❷作成年月日が明記されていること、❸署名押印がされていること、❹訂正する場合に訂正箇所への押印と訂正した旨の自書をすることが必要です。さらに、民法の改正により、遺産目録についてはパソコンでの作成や通帳のコピーの添付も可能となりましたが、❺遺産目録にも署名押印が必要です。

 

 このような違いがあるため、従前は、何か事情がない限り、できる限り、公正証書遺言を作っておくべきとされていました。

 

 そのような状況の中で、自筆証書遺言のデメリットの一部が解消されるものとして、法務局の保管制度ができることになりました。

 

4 自筆証書遺言保管制度のメリットと使うべき場面

法務局による保管制度のメリットは、

法務省のHPで公開されているパンフレットの通り、遺言書を紛失したり、誰かに見つけられてしまうリスクを防ぐとともに、相続人にとっても家庭裁判所で検認を受ける必要がなくなります。

 

自筆証書遺言のデメリットの大きな部分がなくなることにはなりますので、十分な利用価値があると言えるでしょう。

 

ただ、自筆証書遺言の様式は指定されていますので、これを守り、予約をして申請する必要があります。保管料がかかりますが、1件3,900円ですので、かなりリーズナブルです。

 このように費用、手間や労力をかけない形で、本人が遺言書を作成するのであれば、自筆証書遺言+法務局保管制度は魅力的だと思います。ただ、遺言の内容はあくまでも本人が考えなければいけません。そのため、相続人たちが揉めないように適切な内容にできるかがポイントとなります。

 

 ただ一方で、多少の費用をかけてでも、確実に、有効で、かつ、紛争を予防できる適切な内容の遺言書を作成するのであれば、やはり公正証書遺言を作るべきでしょう。特に、遺言書の内容も確定しており、今後内容を変える可能性もほとんどないのであれば、一度頑張って作成すれば変更する必要もないので、それで足りるでしょう。

 

 なお、公正証書遺言の作成を弁護士に依頼する場合、遺産の内容や分け方の複雑さによっても多少の増減はありますが、およそ10万円程度で依頼できるかと思います。