就業規則の不利益変更と定年後の再雇用拒否事案の判断

 

 11月27日の報道で、私立高校に勤務する教員らについて、勤務中に就業規則が変更され、この規則に基づいて60歳の誕生日を持って定年とし、雇用契約を打ち切られた件について、控訴審の判断が出ました。


 

「60歳の誕生日に雇用打ち切り」就業規則の変更は無効 控訴審でも原告の女子高教諭ら勝訴(11月27日付弁護士JPニュース)

https://news.yahoo.co.jp/articles/3faaad9706817b72b392c574d18627760a83c571

 これは、勤務開始後に、学園が就業規則を変更して定年を「60歳の誕生日」と定め、各々の誕生日に定年を迎えたとして、年度途中で雇用を打ち切ったという事案です。

 本訴訟は、就業規則の不利益変更による雇用の打ち切りは不当であるとして、労働契約上の地位を確認し、退職とされた日以降の月例賃金や慰謝料の支払いを請求するものでした。

 

 3月27日の一審判決で、東京地裁は以下のように判断していました。

①学園が就業規則を変更して、定年を「満60歳に到達した年度の年度末」から「満60歳の誕生日定年」にしたことは合理性のない不利益な変更であり無効

②原告らが「無断で事務室に立ち入る」「朝の挨拶活動を行う」「理事長の家を来訪する」などの行為をしたことは「再雇用拒否事由」にあたる客観的・合理的な理由があるとは認められない

③学園が就業規則を変更して、定年後に再雇用された教員の地位を「常勤講師」から「非常勤講師」に変更したことについても、「就業規則の不利益変更は無効である」旨定めた労働契約上の規定を類推適用して無効、原告らの定年後にも常勤講師としての契約は成立

④原告らに対する再雇用拒否は不当労働行為に該当、原告らに慰謝料請求が認められる

 

 これに対して、学園は控訴し、再雇用拒否事由を控訴審で改めて主張しましたが、認められませんでした。

 その上で、再雇用契約の成立について、高裁は「高年齢者雇用安定法の継続雇用制度に関する趣旨を援用して、労働者の再雇用の申し込みに対する再雇用拒否が違法である場合は、『申し込みを承諾したもの』と見なすべきである」と判断しました。

 


 

 そもそも就業規則とは、会社が定めるその会社のルールのことです。従業員は会社と雇用契約を締結する際に、就業規則に従うことに同意して就職するのが通常です。そのため、このルールには基本的に従わなければなりません。

 

 ただし、内容が法律に違反する場合や手続きに問題があって無効になることがあります。

 その1つの場面が就業規則の不利益変更です。ここでいう不利益変更とは、従業員にとって不利な条件に就業規則の一部を変えることを指します。

 就業規則の不利益変更をする場合、原則としてすでに勤務している従業員の同意が必要です。会社としては、就業規則を不利益変更するのであれば、その内容を従業員に十分説明して、個別の同意書を取得すべきでしょう。

 

 ただ、個別の同意を取得せず、就業規則を変更した場合でも、「合理性」があり、かつ、従業員に「周知」することで、例外的に有効となる場合があります(労働契約法10条)。

 

 合理性があるかどうかの判断については、①従業員の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして判断されます。

 なお、周知の方法としては、掲示、配布、イントラネットでの公開などが適切とされています。

 

 本件では、就業規則において、定年を引き下げ、かつ、定年後再雇用の地位を常勤講師から非常勤講師の地位に変更する旨の改訂をしていることから、不利益変更に当たる場面であり、その合理性が問題となりましたが、いずれも合理性がなく無効とした上で、定年後再雇用を拒否する合理的な事由がないとして、常勤講師としての再雇用契約の成立を認めました。

 

 なお、これについて、高裁は「高年齢者雇用安定法の継続雇用制度に関する趣旨」に言及しておりますが、日本では継続雇用制度が採用され、企業は希望するすべての従業員に対して65歳までの雇用を確保する義務があります。そこで、多くの企業では定年後再雇用制度を採用し、契約社員や嘱託社員として雇用を継続しているのが実情です。