相続税の基本的な内容を確認しておこう!

 ここでは相続や遺産分割を考える際に、最低限知っておいた方が良い相続税の知識を整理しました。

 ただし、あくまでも見立てを立てるため、概要を把握する目的で整理したものであって、個別具体的にどのような相続税がかかるかについては、税理士に相談、依頼すべきであることは間違いありませんので、ご留意ください。


1 相続税の概要

 

 相続税は、被相続人(亡くなった方)から財産を受け取る相続人が、その財産に応じて支払う税金です。

 

 相続税は、財産を相続または遺贈によって財産を取得した個人に課されます。

 課税対象となる財産は、現金、預金、不動産、有価証券などのプラス財産と借金や未払金などのマイナス財産を合算した「正味財産」と呼ばれるものです。

 課税される範囲:としては、被相続人が日本に居住していた場合、その財産が国内外を問わず課税対象になることに注意しましょう。

 納税義務者は、原則として財産を取得した相続人や受遺者です。

2 相続税の計算式

相続税の税率(国税庁HP)
相続税の税率(国税庁HP)

 課税価格の計算式は複雑ですが、ここでは基本的な考え方を確認しておきましょう。

 

①まずは各相続人が取得した財産の合計額(課税価格)を算出します。

※相続時清算課税の適用を受ける贈与財産を含める必要があります。

 

②そこから借入金などの負債や葬式費用を控除したり、非課税財産を控除したりして、「正味財産額」を計算します。

 

③「正味財産額」から基礎控除額を控除して「課税遺産総額」を算出します。基礎控除額は法定相続人の人数によって変動します。

 【基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)】

※一見、養子縁組をして法定相続人を増やせば節税できそうですが、これには制限があるのでご注意ください。

 

④「課税遺産総額」をもとに各相続人の税額を計算します。

 具体的には、課税遺産総額を法定相続分で按分し、各々の金額に応じた以下の税率を適用することによって個別の税額を計算します。

 いったん相続人ごとの取得額に応じて計算すること、金額が増えれば増えるほど税率も上がる(累進課税)に特色があります。

  

⑤実際の納付税額

 上記計算で求めた税額から、後述する配偶者控除や未成年控除などの控除があればこれを適用します。

 そして、法定相続人ごとの税額を合計したものが相続税の総額になります。

 

 例えば、法定相続人が妻と子2人である場合、法定相続分は妻2分の1、子4分の1、子4分の1となります。

 課税遺産総額が1億5,200万円とすると、法定相続分に応ずる取得金額は、妻が7,600万円、子が3,800万円ずつとなります。

 これらの法定相続分に応ずる取得金額を相続税の速算表に当てはめると、算出税額は次のとおり計算されます。

 ・法定相続分に応ずる取得金額(妻) 7,600万円 × 30% - 700万円 = 1,580万円

 ・法定相続分に応ずる取得金額(子) 3,800万円 × 20% - 200万円 = 560万円

 ・法定相続分に応ずる取得金額(子) 3,800万円 × 20% - 200万円 = 560万円

 算出された税額を合計すると相続税の総額は2,700万円になります。

相続税の税率(国税庁HP)
相続税の税率(国税庁HP)

3 実務でよく使われる制度とポイント

 相続税を減らすことができる制度がいくつかありますが、中でも以下については適用できる場面も多く、節税効果も大きいため、有効活用することが良いでしょう。ただし、実際に使えるかどうかは税理士に相談しましょう。

 

①配偶者の大幅な税額軽減

 配偶者が取得した財産に対する相続税が大幅に軽減される制度があり、非常に有効です。配偶者が相続人の場合は、その後生じるであろう相続のことも考えつつ、これをうまく使う必要があるでしょう。

 

 【配偶者控除の限度額 →  1億6,000万円または法定相続分相当額(いずれか大きい方)】

 

②小規模宅地等の特例

 居住用または事業用の宅地について、相続人がその土地を継続して利用することなどの一定の条件を満たせば、評価額を最大80%減額できる制度です。

 不動産の評価額を大幅に減額することで、課税対象となる財産額を大きく減少させる可能性があります。

 

③未成年者控除や障害者控除

・未成年者が相続人の場合、20歳に達するまでの年数1年につき10万円を控除。

・障害者が相続人の場合、70歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者は20万円)を控除。

 

4 注意すべきポイント

①期限内申告と納付

 相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付することが原則として必要です。

 相続税の支払いは法定相続人に連帯責任があり、申告期限に遅れると延滞税や無申告加算税が発生することに注意しましょう。

 

 ただ、現実的には、遺産分割協議に時間を要することがあります。相続税の特例(配偶者控除や小規模宅地等の特例)は遺産分割が確定していることが条件となり、分割が遅れると、特例適用が受けられない場合もあります。

 このような場合には、申告期限以内に法定相続分でいったん相続税の申告をしつつ、確定した段階で更正の申告や修正申告をしつつ、申告期限後3年以内の分割見込書の提出をしておくことで特例の適用可能性を保留することができます。申告期限内に、遺産分割がまとまらない可能性がある場合も、お早めに税理士に相談しましょう。

 

②不動産の評価額に注意

 相続税の申告時には、不動産の評価として、路線価や固定資産税評価額が用いられるのが一般的です。ただ、これは実際の取引価格と乖離している場合も多くあります。遺産分割をする際の評価額としては実際の取引価格とする場合も多く、切り分けて考える必要があります。

 

③税務調査のリスク

 高額な財産を相続する場合や財産内容に不明瞭な点がある場合、税務調査の対象になりやすくなります。

 現実問題として、国税庁も、人員を割いて税務調査に入る以上、より相続税を追徴課税できるところに入るものでしょう。高額な財産がある場合はより慎重にすべく、税理士に依頼して申告をしましょう。

 

④税理士・弁護士への早期の相談

 相続税は、財産の内容や相続人の状況によって課税額や申告内容が大きく変わります。特例や控除を活用することで大幅な軽減が可能ですが、適用には要件が厳格に定められているため、税理士へ早期に相談しましょう。また、遺産分割協議をする必要がある場合には、並行して弁護士にも依頼することで最善の利益が獲得できるでしょう。


 

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