「相続探偵」(第3話)から弁護士と学ぶ相続と遺言書!

相続探偵(1)(イブニングKC)
相続探偵(1)(イブニングKC)

 

 日本テレビ土曜9時の枠で放送中の「相続探偵」!

 

 「第三話 マリーアントワネットの相続」がNetflixでも配信開始されました!

 第一話・第二話に続き、弁護士の立場から少し考察します。

 なお、第一話の講評、第二話の講評は以下からご覧ください!

 第一話「或る小説家の遺言」

 第二話「その女、危険につき」

 

 第三話 「マリーアントワネットの相続」

【あらすじ】

 灰江のコーヒー仲間で、将棋道具店の店主・加藤香車が急逝する。

 加藤が残したのは、”すべての財産をマリーアントワネット様に遺贈します”という奇妙な遺言。

 その真意を解く鍵は1匹の猫だった!?

 

 急逝した店主には経済的に成功した一人息子が唯一の相続人としていましたが、自宅に遺言を残していました。

 

 遺言書というのは、法律的に効力をもつためには形式的な条件を満たしていなければいけません。

 それを満たしていないと、法律的には無効なただの手紙(メッセージとしてはもちろん事実上の意味はあでしょうが)になってしまいます。

 今回は公証役場でつくる公正証書遺言とは違って、自筆証書遺言でした。そのため、法律上、全文自筆で書いてある必要があり、日付と自署、押印も必要です。

 店主がのこした遺言書はこの形式的な条件を満たしていました。

【参考記事】有効な遺言書を書くために〜3種類の遺言書〜

 

 ただ、内容が少し奇妙なものでした!

 というのも、"全ての財産をマリーアントワネットへ遺贈する"という内容だったのです。

 

 悪ふざけだと思った息子が遺言書を捨てようとしましたが、かさず主人公の元弁護士である灰江からの鋭い指摘!

 刑法259条の私用文書等毀棄罪(5年以下の懲役)に当たるというものです。他人が作成した権利義務に関わる文書を廃棄するような行為は確かにこれにあたりえます。まあ、もちろん実際にそれで刑事事件になることは多くはありませんが・・・

 

 

 では、遺言の内容はどうでしょうか。これを掘り下げてみましょう。

 

 遺贈とは、遺言書に基づいて亡くなった人の財産の全部や一部を相続人以外の個人や団体に財産を譲るというものです。財産を譲りたいものが法律上の相続人の場合には「〇〇を△△に相続させる」と書くことが多いでしょう。逆にいうと、間違いでない限り、「マリーアントワネット」が相続人ではないことを読み取れます。

 

 ただ、この遺贈を受ける「マリーアントワネット」が、あの歴史上のマリーアントワネットであれば、どうなるでしょうか。

 遺贈は遺言者の死亡時に遺贈を受け取る人が存在することが前提となり、すでに亡くなっている歴史上の人物は遺贈を受けることはできず、この内容自体は無効となります。

 

 ところが、ドラマの中では、このマリーアントワネットが猫の名前の可能性が浮上します。

 ペットを飼ってる方にとっては猫も家族だとは思いますが、法律上、ペットというのは「物」と扱われるてしまい、権利などは保有できません。そのため、ペットに遺贈するという内容もやはり法的には無効になってしまうのです。

 これに対して、主人公の灰江がすかさず、法律的には無効でも、それを考慮することはできると指摘します。

 上記の遺言書では法的には無効なのですが、もしペットの世話をさせたいと考えて遺言書を作るのであれば、それを条件に財産を遺贈したり、ペットに係る費用を弁護士や信託会社に資金を託し、ペットのために管理・運用させることができるのです。

 ドラマの中でも、①負担付遺贈、②負担付死因贈与、③ペットのための信託がテロップ付でしっかりと説明されていましたね!

 法的には無効でも、亡くなった店主の意思を尊重すべきではないかという指摘なわけです。

 

 果たして、このマリーアントワネットが実在するのか?猫なのか?

 ネタバレになるので伏せますが、今回のお話では、遺言書が”愛する人たちに出す最後のラブレター”であるということが強調されていました。

 これは私の相続に関するblog等でも繰り返しご紹介している名言ですが、弁護士として複雑な相続や遺産分割に関われば関わるほど、このラブレターの存在の重みとありがたさを痛感するものです。

 

 大切な家族がいるからこそ、自分が亡くなった後のことを、一度立ち止まって考えてあげられるといいですね! 

 相続や遺言書を通じて、家族のあり方も考えさせるようないいお話でした。


 相続や遺産分割は合理的な法律と不合理な感情が入り混じる複雑な事案が多くあり、なかなかドラマのようには解決しないものです。ただ、当職は弁護士として15年、相続や遺産分割については調停や審判、関連訴訟等も多く経験しており、交渉で解決する重要性も意識しています。もし相続に関連してお悩みの方はご相談ください。