「相続探偵」(第2話)から弁護士と学ぶ相続!

相続探偵(1)(イブニングKC)
相続探偵(1)(イブニングKC)

 日本テレビ土曜9時の枠で放送中の「相続探偵」

 「第二話 その女、危険につき」がNetflixでも配信開始されました!

 第一話の感想が結構好評だったようなので、続けられるとこまで続けてみます。

 なお、第一話の講評はコチラからご覧ください!

 

 第二話は、資産家男性の死に関与したと疑われる若い再婚相手の相続と欠格事由のお話。

【あらすじ】

急逝した資産家男性の遺言により、10億の遺産を手にした未亡人・島村紗流。彼女は過去にも結婚と死別を繰り返し、高額な保険金を手にしていた。果たして灰江は後妻業の女の悪事を暴けるのか。

 

 物語は、資産家である父親が突然死したとして、前妻の子ども(娘)と保険会社の担当者が主人公の灰絵に相談にくるところから始まります。

 未亡人となった再婚相手・後妻に全財産を譲るという内容の遺言書があり、筆跡鑑定の結果、100%資産家本人のものであるとされました!

 しかし、それに納得がいかない娘。後妻が父親を殺したのではないかと強い疑いをもっており、灰絵に調査を依頼することになります。

 

 この設定や物語を法律的な観点から見ていきましょう。

 法律的にみると、配偶者がいれば常に法律上の相続人になりますが、離婚すれば家族関係は解消されることになり、離婚した前妻にはそもそも相続権がありません。ただ、前妻の子どもについては親が離婚したとしても父子関係や母子関係には影響せず、子どもであることには変わりはありませんので、法律上の相続権があります。

 そのため、法律上有効な遺言書がない限り、後妻と前妻の子どもがそれぞれ遺産の2分の1ずつの相続分を取得し、その取り分に基づいて遺産分割の話し合いをすることになります。

 ただ、法律上有効な遺言書があると、そこにあらわれた亡くなった人(=被相続人)の意思が優先されることになります。そのため、後妻に全財産を譲る遺言書が有効である限り、その通りになってしまいます。とはいえ、その場合であっても、子どもには遺留分という最低限の保障があります。このケースでは子どもの最低限の補償分は遺産全体の4分の1となります。

 

 このような状況を前提に、ドラマでは、後妻による資産家男性の殺人の可能性を調査していくことになります。

 被相続人を殺害したり遺言書を偽造したりした場合、法律上の相続資格を失う欠格事由に当たるため、一切相続することはできなくなります。相続財産目当てで殺人を犯したり、遺言書を偽造したりすることを法的に正当化することはできないので。

 

 つまり、この物語の結論としては、

①遺言書が有効なら、子どもは後妻に遺留分として遺産の4分の1のみ請求できる

②遺言書が無効なら、後妻と子どもは2分の1ずつの相続分をもとに、遺産分割の話し合いをする

③もし後妻が男性を殺したなら、後妻は欠格事由にあたり、子どもが遺産を全て相続する

ということになるわけです。

 つまり、①なら4分の1、②なら2分の1、③なら1(全部)となるわけで、大きく変わってきます。

 

 また、ストーリーのネタバレはやめておきますが、恋人とあえて養子縁組をして法律上の親子関係を創設し、相続権を発生させるというくだりもあり、なかなか興味深い話です。

 

 そして、ラストシーン、殺人を暴いた灰絵は、真顔で「彼女はおそらく死刑だよ」とつぶやいたのが印象的でした。

 過去にも複数の保険金や遺産目当ての殺人を犯しており、日本で実際にそのような事件を犯したものの裁判で死刑が言い渡されたケースが思い浮かぶところです。

 

 このストーリーもなかなかの事案なのですが、”事実は小説よりも奇なり”とはよくいうもので、和歌山の資産家・紀州のドンファンを巡る事案はこれ以上に複雑な状況で、今もなお、最終的な結論は出ていません。

 元妻の殺人被告事件の刑事裁判は一審では無罪となり、検察官が控訴中、親族が市に寄付するとした遺言書の無効確認を求めて起こした民事裁判では一審では遺言書は有効と判断され、親族側が控訴中のようです。

 

 これら実際の事件にも関心がある場合は↓↓の記事をご覧ください。

 2024/7/18「”紀州のドンファン”、1審(地裁)で遺言書の有効を認める判決!」

 2024/10/4「遺言書の効力と遺留分〜紀州のドンファン殺人事件裁判〜」

 


 相続や遺産分割は合理的な法律と不合理な感情が入り混じる複雑な事案が多くあり、なかなかドラマのようには解決しないものです。ただ、当職は弁護士として15年、相続や遺産分割については調停や審判、関連訴訟等も多く経験しており、交渉で解決する重要性も意識しています。もし相続に関連してお悩みの方はご相談ください。