2023年8月1日、各社報道機関から、スシロー店舗内で少年が醤油さしを舐めた動画が拡散した件に関する民事裁判について、既に調停が成立し、終結していることが判明した旨報道されました。
読売新聞オンラインの記事冒頭を引用すると、以下の通りです。
「回転ずしチェーン「スシロー」の店舗で客の少年がしょうゆ差しをなめる動画が拡散し、運営会社「あきんどスシロー」(大阪府)が岐阜県の少年に約6700万円の損害賠償を求めて大阪地裁に起こした訴訟で、調停が成立し、訴えが取り下げられたことがわかった。…」
こちらの件は、社会・世間から非常に注目された事件であり、スシローとしても厳正に対処することが求められていました。その対処が甘ければ、むしろスシローが叩かれるような世間の雰囲気すらありました。
そのような状況の中で、スシローは警察への被害届を出して刑事上の処罰を求めるとともに、民事的にも安易に内々の示談交渉で和解せずに、裁判を起こすことにしたのでしょう。全店舗にかかった清掃費用なども含めて約6700万円もの多額の金額を求めて、少年に対する民事裁判を起こしました。この請求額は大きく報道されることになり、世間からも「スシローよくやった!」という声が多かった印象です。
通常、弁護士が裁判を起こす場合、一定の根拠をもって認められる可能性がある上限の金額を請求することが多いでしょう。その理由としては、裁判所が原告が設定した請求額の範囲でしか損害を認めないからです。ただ、裁判を起こした後に請求額を増やすことは可能です。スシローの件では、さらなる増額の可能性も示されていたようですが、認められる可能性のある損害を相当入れ込んで請求したと言えるでしょう。
損害の詳細まではわからないものの、弁護士が法律的な観点から見れば、果たして、そこまでの大きな損害について、少年の行為と法的な因果関係が認められるのだろうかという疑問はありました。
これに対して、少年側としても、醤油さしを舐めた行為は認めつつ、もともと動画は仲間内で共有するつもりで、拡散するつもりはなかったとして、その責任は一定認めつつも、損害の一部の因果関係を争うなどしていました。少年の行為と因果関係がない損害については、少年は責任を負わないからです。このような姿勢を批判するような報道もありましたが、あくまで法律上は相当因果関係が認められない損害の賠償責任を負いませんし、代理人弁護士としては当然すべき反論でしょう。
スシローとしても、非常に社会的注目を浴びた事件でもあり、厳正な対処をしていることを世間(株主含む)にアピールすべく、上記6700万円もの金額をあえて請求することにより、金額自体もニュースで取り上げられるようにしたと推察されます。
ただ、現実問題として、少年にそのような支払い能力があるはずもありません。スシロー側が和解せずに、あくまで強気で押し通し、裁判所の判決をとった場合、法律的な因果関係が否定されれば、損害額が大幅に削られる可能性もあったでしょう。これはスシローにとってはリスクであり、せっかく6700万円の請求をし、それが広く報道された効果が失われる可能性がありました。
このようなリスクも考慮していたと考えられますが、裁判所主導か、あるいは、スシロー側主導で、通常よりも早い段階で、訴訟資料が公開される訴訟手続きでではなく、非公開の調停に付し(”付調停”:民事調停法20条)、協議を進めたのでしょう。そして、お互いに調停の内容を一切口外しない条項付きで調停を成立させた結果、裁判が終結することとなったと考えられます。
これによって、スシローとしても迷惑客の行動に対して厳正な対処をとって6700万円を請求したということはしっかり残りますので、狙い通りということでしょう。迷惑客による業務妨害行為や動画の拡散への抑止力になることが期待されます。
ただ、このような制裁的なやり方だけでいいわけはなく、SNSの利用に関する子どもらへの教育は大人が行うべき急務であり、これが追いついていないのが現状でしょう。大人が使い方をしっかりに身につけながら、子どもらへも伝えていく必要があります。
以前、中学校や高校でSNSの使い方に関する講義をしましたが、機会があればどんどんやっていきたいと改めて感じました。