1 法律で定められた相続と相続人
民法における「相続」について、勉強されている方は多いと思いますが、多くの方が全体の仕組みを理解しないまま勉強してます。
森を見ずに木だけを見てる状況です。
実務を知らないまま座学でやっているとやむをえないのですが、これではなかなか理解は深まりません。
そのことを司法試験の試験委員もよくわかってるので、あえて論文試験で相続を絡めて出題してくることもよくあります。
個別の条文の整理はもちろんめちゃ大事ですが、まずは全体像を理解しましょう!
相続を勉強してるかたはぜひ六法片手に一読してください!
そもそも相続と言うのは、ある人の死亡を原因882条として、始まります。
その時点で死亡した被相続人が持っていたプラスの財産とマイナスの財産(これらをまとめて相続財産=遺産と言います)
の所有権などの権利義務が全てまとめて相続人となる者たちに引き継がれます(896条)。
これが「包括承継」と呼ばれるゆえんです。
なお、これに対して、特定の不動産の所有権を取得する原因となる売買や時効を「特定承継」と言います。
そして、この相続財産を承継できる資格を持つ人を相続人(「第二章 相続人」)と呼びます。
誰が相続人になるかは民法に書いてます(887条以下)
また、それだけじゃなく、ぞれぞれの相続人がどのような割合で相続するかも法律に書いてます(900条)。
これが法定相続分です。
例えば、配偶者は常に相続人となります。配偶者以外には、まずは子どもがいれば子どもが、子どもがいなければ親が、親もいなければ兄弟姉妹が相続人となります。法律上の相続分は、配偶者と子なら1/2と1/2、配偶者と親なら2/3と1/3、配偶者と兄弟姉妹なら3/4と1/4となり、配偶者は1人しかいませんが、子供や親、兄弟姉妹が複数いればこの割合をさらに人数で頭割をすることになります。
配偶者と子ども2人がいれば配偶者1/2、子1人1/4となるわけです。
2 遺産共有からの遺産分割による確定的な帰属
ここで大事なことは、被相続人が亡くなって相続が開始した時点で、相続人らが相続財産を共有する状態になります(898条)。
そして、その共有については、法定相続分通りの共有持分となります(899条)。これが「遺産共有」と呼ばれる状態です。
ただし、これはあくまでも、一時的で、暫定的な状態です。
最終的には、相続財産について、相続人の誰が、何を、どれだけ相続するのかを決めなければいけません。
そこで遺産分割協議(協議で無理なら調停、調停で無理なら家裁の審判)(907条)をすることになります。
この遺産分割協議というのは、相続人らが法定相続分を前提として、実際にこの不動産は誰が取得するとか、その代わりに預金は誰々がもらうとか、具体的に誰が何をもらうのかを話し合って決めることになります。
全てが決まれば、遺産分割協議書を作成して取り交わすことによって、誰が何をもらうかを確定させることになります。
この遺産分割の結果には遡及効という効果が、相続を開始した時点にさかのぼって、もともとそうであったことになります。
このように、相続による財産の帰属を最終的に確定させるのが遺産分割です。
ただ、実際にはそんなにスムーズにはいきません。
人間関係ができていて、分割するのにそれほど困難な問題がなければスムーズにいきますが、そうでなければ、遺産分割協議では、「あんた、おじいちゃんからマンションの頭金出してもうたやろ!」(特別受益903条)とか、「私がずっと看護してきたからこれだけ財産が残ってる!」(寄与分904条の2)とか、色んな想いと主張が繰り広げられるからです。
遺産分割がまとまらなけらば、調停・審判と泥沼の「争族」となってしまいます。
3 「争続」を防ぐための唯一無二の方法こそ遺言!
このような、「遺産共有」からの「遺産分割」という法律上も複雑で、感情的にも整理し難い状況を回避するために、唯一無二の有効な方法こそ、「遺言」です。
生前の意思表示として、有効な「遺言」を残しておくことによって、被相続人となる者が、死亡後の自分の財産の帰属について、あらかじめ決めておくことが可能でです。
例えば、遺言の中で、「J不動産は相続人Zに相続させる」などと書くことで、
①相続人による法定相続分を指定する(902条1項)とともに、②遺産分割方法をも指定(908条)してしまうわけです。
ここで、相続人に最低限保障されている遺留分(1042条)の割合を意識しておき、遺留分を侵害しない内容で「遺言」を作っておけば、全て遺言どおりの内容がそのまま実現することになります(なお、遺留分を侵害する遺言になってしまうと、遺留分権利者が権利行使するかどうかという不確定な事由によって状況が変わりますし、その金額を含めて紛争になりうる可能性があります)。
これほど重要な法的効果をもち、かつ、相続人たちによっても極めて重要なものになるので、被相続人の生前の意思が明確になるよう厳格な方式(960条)を満たさなければいけなくなっています。
実務上、最も用いられるのが①自筆証書遺言(968条)、②公正証書遺言(969条)です。
これらの遺言書の方法やメリット・デメリット、新たに導入された法務局の遺言書保管制度については別記事で書きましたので、こちらをご参照ください。
ここまでおさえて理解しておけば、もし司法試験の論文試験で相続分野から出題されたとしても、あとは民法の条文を引きまくればなんとかなるでしょう。
なお、YouTubeの改正民法条文講義「民法の地図」も、無事改正民法の全条文を最後まで終わりました。4時間あれば、親族相続だけでも試聴できますので、ぜひ復習に活用ください。短答にはこれで十分でしょう。
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