プロ野球”東北楽天ゴールデンイーグルス”で起きたパワハラ問題とその対応 

 

 2023年度のプロ野球は、関西ダービーと呼ばれた日本シリーズを阪神タイガーズが制し、幕を閉じました。

 ストーブリーグで選手たちの契約更改が行われる中、東北楽天ゴールデンイーグルスのおいて選手が球団にパワハラ被害を訴えるというこれまでにない事態が起こりました。

 球団は急遽指導陣や選手たちにアンケートを行い、その結果が整理された時点で、先日、球団社長が弁護士同席のもと、記者会見を行いました。

 なお、会見の様子は下部に動画のリンクを貼り付けているので、ご覧ください。

 

 

 問題が報道された25日以降、5日しかたっていませんが、この間にアンケートと加害者ら一部からヒアリングをし、概ねの筋を確認した上で、加害者とされた安樂選手を自由契約選手とし、来期シーズンは契約しない方針としました。

 

 会見によると、アンケートは25日以降、全選手、監督、コーチ、スタッフを含め計137人を対象に実施、回答率92%、直接的な被害を自覚している選手が10人、見たり聞いたりした選手は約40人いたことが明らかになりました。

 森井球団社長は、「これまで報道されていた事象はほぼ事実と判明した」と説明しました。

 具体的に認定されたパワハラ行為としては、(1)報道されたような平手打ちの事実はなかったものの、押すような身体的接触(2)ロッカールームで逆立ちさせて下半身を露出させた(3)食事の誘いに行かなかった場合、深夜にわたってしつこく電話(4)罰金と称してお金を徴収(5)「アホ」「バカ」などの暴言などとのことです。

 

 

 ヒアリング自体はまだ関係者全員からは行っていないようですが、それでもスピード感を重視して、パワハラ行為主要な部分が確認できたことから会見に踏み切ったのでしょう。

 そもそもこの日が球団の保留者名簿の提出期限であり、名簿に記載するか自由契約にするかという選択を迫られていたという事情もあるでしょう。それに加えて、時間が空けば空くほど、憶測が憶測を呼び、無関係な選手らに対しても誹謗中傷がエスカレートするリスクもあります。そのため、このスピード感はとても大切で、これが遅れていれば二次被害が広がっていたでしょう。

 関係者への詳しいヒアリングまでは済んでいない段階ですが、確定できた事実をもとに加害者へのヒアリングもし、処分を決めたというところと推察されます。

 

 企業の不祥事対応という観点から見ると、このような迅速な対応に加え、森井球団社長の会見自体、誠実な印象でした。

 

 その要因として、1つには、問題のポイントや実施したアンケート調査の方法や内容、ヒアリングの内容などをしっかりと把握して、自分の口で説明できていたことが挙げられるでしょう。当然のことのように聞こえるかもしれませんが、これは決して簡単なことではありません。わざわざ弁護士が同席しているわけですし、弁護士に任せたくなるものです。しかし、森井球団社長には、できる限り自分が説明しようという主体的な姿勢がみてとれました。同席している弁護士はあくまでも補充的な説明にとどめており、そのバランスが非常によかったと感じました。

 

 そして、2つ目としては、現時点で、わかっていることとまだわからないことを明確に区別して話していたことが挙げられるでしょう。この区別を曖昧にすると、さらに不要な憶測をよぶことにも繋がる危険があります。記事やニュースを意識してコメントを引き出したい記者の質問にも流されず、ブレない回答を丁寧に繰り返していました。 

 

 なお、森井球団社長はもともと仙台89ERSの会長であり、今年の8月に球団社長に主任したばかりです。球団の内実を把握しきれていなくても無理はない部分はあるでしょう。組織として、あるいはその役職から法的な責任を負いうる立場にあるとはいえで、個人的に何か非があるわけでもないでしょう。むしろ、だからこそ、起きた事態に対して冷静かつ客観的に対応できたのかもしれません。

 

 起きた事態自体はもちろん最悪なことですが、大事なことはこれをイレギュラーな個人の責任とせずに、組織的、構造的な問題と捉えて再発防止策に取り組むことでしょう。

 そして、今のところ、楽天球団の対応としては、これを期待できるような対応と感じます。