保険金の不正請求やパワハラなどの問題で、一時世間を騒がせていた旧ビッグモーター!
先月同社の岐阜県の支店でのパワハラに関する民事裁判の判決がありました。
NHK NEWS WEBより
「岐阜県各務原市にある旧ビッグモーターの店舗で店長を務めていた井川翔馬さん(29)は在職当時、本社の上司から暴言や残業を強要されるパワハラを受けてうつ病を発症したなどとして、会社に対し、未払いの時間外労働賃金や慰謝料など2100万円余りの賠償を求める訴えを起こしていました。
井川さんはおととし事故で亡くなり、両親が裁判を引き継いでいます。
…8日の判決で岐阜地方裁判所の松田敦子裁判官は、井川さんに対する上司の「日本語大丈夫?」とか「店長下りろタコが」といったLINEでの発言について、「指導の域を超える暴言で、パワーハラスメントにあたる」と認定し、慰謝料として55万円の賠償を命じました。
一方で、「業務改善を目的とした指導の中で行われ、いずれも長時間に及ぶものではない」などとして、うつ病との因果関係を否定しました。
また、未払いの時間外労働賃金についても店の管理監督者にあたるとして、請求権を認めませんでした。」
こちらの判決全文はこちらから読むことができます。
↓↓
判決文を見ますと、以下のような認定になっています。
1 上司からのLINEに関する違法なパワハラ該当性について
本件では特にLINEグループでの上司から部下(店長)へのLINEメッセージが問題になったようですが、判決ではあくまでも具体的な業務内容の問題や改善に関することについては表現が穏当ではないとしつつも、指導の範囲内として許容しました。
他方で、人格的な非難や侮辱的な発言、高圧的な態様に関しては、指導としての相当性を欠くとして、違法なパワハラにあたると認定しました。
【判決文の内容】
①「確かに、cが従業員に25 所定休日に満たない日数の休日を割り当てるという初歩的なミスをしたことについて指導を行うものといい得るが、そうであれば、単に、上記ミスを指摘して直ちに修正するよう指示し、今後は同様のミスをしないよう注意すれば足りるのであり、「タコが!!!!!!!!!!!!!!!」、「何年店 長やってんだよ」、「クソ赤字でやる事全て適当か!!」といった発言(投稿) を加える必要性は皆無であって、このようなc自身を蔑むような発言は指導の域を超えた暴言に当たるといえる。」
②「また、上記のミスの指導から各務原店の成績が不振である点に話題が移り、「具体的に答えろ!!!!!!!!!!!!!」とcに対し強く回答を求めているが、そもそも、上記のミスの指導から2分程度の間にdから矢継ぎ早に投稿された文言(前記(1)カ、甲8)を見ても、何を質問しているのか必ずしも明確でなく、上記のミスに関してdから暴言を投げかけられて冷静さを欠く心理状態になっていると思われるcに対し、「何なのマジで」などとなじるような言葉を投げかけながら、高圧的な態様で成績不振の改善方法について回答を求めるのは、指導の方法として相当性を欠くと評価せざるを得ない。」
③甲9のラインは成績不振店の店長で構成されたグループであるところ、c とdとの具体的なやり取りの内容(前記(1)キ、甲9)に照らせば、これら のやり取りは、各務原店の不振の原因が中古車の買取数及び査定数の少なさ にあると考えられるところcが販売を中心にした改善策を検討していたこ とから、原因分析及びその対策を正しい方向に導くため、dが指導をしていたものと概括的にはいえる。そして、cの当初の回答に対し、dが「当たり前の事をズラズラ書いてるだけで、今更?って感じですが、肝心の部分が抜けてる。やり直し、根本の部分を確り考えてください」などと指摘してやり直しを指示していることについては、表現は多少きついものの、cの回答が 検討不足であると判断した上で再度の指示をするものであり、また、cの2度目の回答に対し、dが「勘違いすんな」、「収益構造とか一丁前の事ほざい てるけど、そもそも全然自AP取ってないし、査定数少な過ぎるし、異常な程買えてない現状理解してないでしょ?」「販売販売販売言ってるけど販売したいなら販売店行けば?」、「今日の行動量と予約数が一切足りてないけ ど?何してんの?」等と発言していることについても、表現に穏当を欠くと ころは一部あるものの、各務原店の現状を挙げてcの現状認識が足りないことを指摘するものであり、いずれも指導の域を超えるものとまではいえない。
④他方で、「コンバットも一切結果が出てない雑魚営業以下の数字」、「もちろ ん今全員で猛AP中よね?」「先月クソ赤字だから当然レベルですが」、「販売店行けよ」、「考え方イカれてない?」といったdの発言は、店長であるc 自らが行う買取り等の成果が出ていないことや各務原店の成績が不振であること、cが販売を中心にした改善策しか検討できていないことについて、「雑魚営業以下」、「先月クソ赤字」、「イカれて」るなどの侮蔑的な文言を用いて強く批判等をするものであり、指導としての相当性を欠く言動といえる。
⑤また、予約が取れない原因や対策についてのcの回答に対し、その意味が わからないとして、dが「日本語大丈夫?」、「舐めてんの?」、「予約取る件話してんだろタコが」、「会話すら成立しないなら店長下りろタコが」などと 発言しているのは、これらの発言自体、指導の一環とは評価し難く、指導の域を超える暴言に当たると評価できる。
甲8のライン及び甲9のラインにおけるdのcに対する指導は、いずれも、dが上記のとおり暴言等の不相当な文言を交えながら厳しい指摘を畳みかけて高圧的に回答を求めるという態様で行われたものであり、cに対する指導の必要性を肯定し得るとしても、指導の態様として相当性を欠くというべきである
2 パワハラとうつ病の因果関係について
判決では、違法なパワハラの具体的な態様や上司の主観的な目的も考慮しつつその強度を認定した上で、うつ病との因果関係を否定しました。ここでは特に病院のカルテの記載が決定的な判断要素になっています。
このような認定において、裁判所は、良くも悪くも病院の医療記録の記載内容を非常に重視する傾向があり、そこが影響したように思います。
【判決文の内容】
①甲8のライン及び甲9のラインでのcに対する指導自体も全体とし上記パワーハラスメントは、被告の指摘するとおり、基本的に、c に対し、店長として初歩的ミスを犯していることを認識させ、業績不振店からの脱却のための対策を正しい方向で考えさせるという、飽くまで業務の改善を 目的とした指導の中で行われたものであり、合理的な理由なく半ば個人的な嫌がらせ目的等で行われたものではない上、これらの指導は、対面ではなくライン上で行われたものであり、その機会も2回であって、いずれも長時間に及ぶものではない。
②また、証拠(甲9)によれば、cは、甲9のラインに、令和3年3月28日の時点で「以後カド番にならぬようコンバット継続し数字を引っ張り上げます。ご指導誠にありがとうございました。」と投稿しており、この投稿によると、同月にもcが成績不振店の店長として甲9のラインのメンバーとされてd等から同様の指導を受けていたと推認し得るところ、当時、cが通院していたやまやクリニック及びしまメンタルクリニックのカルテ(甲30、32)によっても、同月頃にcが大きく調子を崩していたことをうかがわせるような記載は見当たらない。
③そして、甲8のライン及び甲9のラインにおける前記の指導についても、これらの指導がされた後に、病名をうつ病とし、令和3年6月15日から1か月 間の自宅療養を要する旨のやまやクリニックの同日付け診断書(甲10)が作成されているが、同時期のやまやクリニック及びしまメンタルクリニックのカルテには、「休職したいと思います。」「めまいでたおれて救急搬送されました。」 「20連勤で1日14h労働」(令和3年6月15日受診。甲30・18枚目、甲30の2・3枚目)、「調子はちょっと悪くなってしまって。」「メニエール病で職場で倒れてしまったんです。」(同月19日。甲32・8ページ)などと、 メニエール病(めまい)や連続勤務で調子が少し悪くなった旨の主訴の記載が ある程度であり、上司の指導(パワーハラスメント)によってcが体調を大きく崩したことをうかがわせるような記載は見当たらない。
これらの事情に照らせば、甲8のライン及び甲9のラインでの上記パワーハラスメントが、cに相当な精神的苦痛を与えるものであったとは認め得るものの、cにうつ病を発症させ、又は既に発症していたうつ病を有意に悪化させるほど強い心理的負荷を与えるものであったとまでは評価し難いというべきで ある。
④そして、cが令和元年6月から令和2年6月までの間に3つの診療内科等の クリニックで通院を開始していること(認定事実イ、ウ、オ)、やまやクリニックの初診時のカルテ(甲30・3~4枚目)には、「仕事の能率低下(+)」、「仕事のやる気(-)」、「hobby(趣味)をやる気(-)」、「人とつきあう気(-)」などと主訴の記載があるほか、「最初の会社も気分おちこんで、仕事が手につ かなくて、三か月間休む。」等の記載があること、令和2年5月の時点ではcに ついて既に「うつ病」との診断がされていたこと(認定事実エ)、ひだまりこころクリニック金山院の初診問診票(初診は令和3年12月1日。甲33・29 ~30枚目)には、「2、3年前~ うつ病、ADHD」、「うつ病は思うように 良くならず、仕事がうまくいかず困っていた。」などの記載があること等を総 合すれば、cは、平成30年ないし令和元年頃、遅くとも令和2年5月までに はうつ病を発症し、その前後を通じて継続的に治療を受けていたものと合理的に推認できる。
以上の事情を踏まえれば、甲8のライン及び甲9のラインでの上記パワーハラスメントが原因で、cにうつ病が発症したとも、既に発症していたうつ病が有意に悪化したとも認め難いというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。