判決を”絵に描いた餅”にさせない財産開示手続きの実効性?!

1 財産開示手続きにおける逮捕事案の発生

 最近、財産開示手続きにおける民事執行法違反により逮捕され、報道されるケースが増えてきました。

 

 直近ではこれらの報道がありました。


 「北九州「ど派手衣装」未払い事件は“不起訴”になったが…債務者の“逃げ得”許さぬ「財産開示手続」4年で利用38倍に」

(2024年06月12日付弁護士JP)

https://www.ben54.jp/news/1227

 

 この事案では、男性が成人式で着用した衣装レンタル代約21万円のうち3万円しか支払わず、貸衣装店が起こした民事訴訟によって福岡地裁小倉支部から代金を支払うよう命じられていました。しかし、それに応じず、地裁小倉支部は男性を財産開示のため呼び出したものの、出頭しなかったため、民事執行法違反(陳述等拒絶)疑いでの逮捕にいたりましたが、福岡地検小倉支部は先月31日付で男性を不起訴処分としました。


 「【裁判に行かなかった】裁判所からの呼び出しを拒絶、パート従業員の女性(30歳)を民事執行法違反の疑いで逮捕」

(2024年10月29日付にいがた経済新聞)

https://www.niikei.jp/1252745/

 

 この事案では、パート従業員の女性が財産開示手続事件の債務者でしたが、3月13日および4月24日、新潟地方裁判所新発田支部からの出頭命令を正当な理由なく拒絶し、財産開示期日に出頭しなかった疑いがもたれ、逮捕されました。


2 債権回収のためにできることと財産開示手続き

 例えば、ある人(X)がある人(Y)に対して債権を有している場合、まずは交渉をし、文書等でその請求をすることになるでしょう。

 それでも、Yが無視するなどして支払おうとしない場合、裁判を提起することになります。裁判で、債権の存在や金額に特に争いがなかったり、Yが無視して欠席したりすれば、特に問題なく勝訴判決を得ることはできます。これによって、XのYに対する債権の存在が公的にも認められることになるわけですが、債務者がそれでも支払わないという態度をとれば、当然には回収できません。

 

 そのような場合には、強制執行を行って相手方の財産を差押え、当該財産をもって回収していくことになります。ただ、ここでも問題があります。相手方の財産を差し押さえるためには、相手方のどの財産を差押えるかを特定しなければならないのです。

 

 判決を取得したからといって、裁判所等が債務者の財産を調べてくれるということは一切ありません。残念ながらYの財産を網羅的に調べるような手段はありません。相手方がどのような財産を持っているかというのは通常わかりません。その結果、せっかく判決を取得しても、相手方が支払いから逃げ続ければ、現実には債権を回収できないという事態が発生します。まさに、判決が”絵に描いた餅”になってしまうのです。

 

 このような場合に使える制度として、財産開示手続きがあります。

 これは、ある債務者に対して、債権を有している債権者が裁判所に申し立て、債務者が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述させる手続きです。債務者の財産に関する情報を手に入れるための手続きです。


3 財産開示手続きの流れ

 財産開示手続を行うためには、まず、前提として「執行力のある債務名義」というものが必要です。これの代表例が、確定した判決です(後ほど説明する2020年改正によりこの対象も拡大されています)。

 それをもとに債務者の住所地を管轄する裁判所に対して、財産開示手続きを開始してもらうためにの申立てを行うことになります。

 

 裁判所に申立てが認められると、債務者が裁判所に出頭する財産開示期日(1〜2ヶ月先)が指定されることになります。そして、裁判所から債務者に対して、呼出状と財産目録提出期限通知書なる書類が送られます。

 

 これを受けた債務者は、その提出期限までに財産目録を作成して提出しなければなりません。この制度も強制的に債務者の財産を調査できる制度ではなく、あくまで債務者自身に財産の詳細を説明させる制度(ただし罰則により虚偽申告を抑制させる)であることにご留意ください。

 

 財産開示期日の前に質問書を提出しておくと、財産開示期日において、もし債務者が出廷すれば、質問書をもとに裁判所が質問を行うことになります。また、裁判所の許可を得て、債務者に対して直接質問を行うこともできます。

 この期日を通じて、債務者自身に財産を開示させ、もし強制執行の対象となりうる財産を特定できれば、それに対して差し押さえをしていくことになります。

 

 なお、事案によっては、財産開示手続きに出廷した債務者と支払いに関する約束ができ、回収できるケースもあります。


4 2020年改正後の財産開示手続きの実効性と利用増加

第二東京弁護士会HPより
第二東京弁護士会HPより

 上記手続きの中で、裁判所から呼出状が出されても、債務者がこれを無視して出頭しないというケースもあります。

 

 2020年に改正される前は、債務者が裁判所の呼び出しを無視して出頭しない場合や虚偽の陳述をした場合でも、受ける制裁は30万円以下の過料のみでした。”財産を明かして強制執行されるよりも過料を支払ったほうが安く済む”と考えた債務者も多かったからか、出頭しないケースも続出していました。2017年に申し立てられた財産開示手続のうち約40%は債務者の不出頭等で不開示となっていたようです。

 

 このような実態を変えるため、2020年の改正によって制裁が強化されました。債務者が出頭しない場合や財産目録等に関して虚偽を述べた場合の制裁として、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰を受けうることになったのです。

 

 これにより、債務者が出頭しない場合には、捜査機関に告発を行うという対応ができるようになりました。 もちろん債務者が刑事処分を受けたからといって、債権が回収できるわけではありません。しかし、告発によって捜査機関による捜査が行われることになれば、前科になる刑事処分を避けようとする債務者から債権の回収を受けることが期待できます。これによって、最終的な刑事処分には至らなくても、債務者が逮捕されてから債権の回収に至るケースも出てきているのです。

 上述した報道のケースも逮捕されたことのみの報道ですが、事案によっては刑事処分としては不起訴になっても、一定回収できたケースもあるでしょう。

 

 なお、この改正により、2020年は新規受付件数が前年比約7倍に増加(19年577件→20年3930件)し、以降も右肩上がりで増え続け、令和5年は2万2022件に達したようです(最高裁「令和5年 司法統計年報 1民事・行政編 」)。

 

 功を奏すかどうかはわかりませんが、事案の状況により、この財産開示手続きも積極的に活用していくべきでしょう。