2021年8月7日、2年ぶりに高校生模擬裁判選手権が開催されました。
昨年は、新型コロナウィルスの感染拡大により、残念ながら全国各地の大会は軒並み中止となってしまいました。
2年前に高校1年生として出場した子たちの中には、次の参加のリベンジを心に誓っていた子もいただけに、とても残念でした。かけがえのない青春の想い出の1つを作ってあげられなかったことは痛恨の極みです。
本年も、新型コロナウィルスの感染拡大は収束していませんでしたが、運営の方々の頑張りのおかげで、無事、オンライン(zoom)で開催することができました。
しかも、なんと初の全国大会!
通常は関西大会、関東大会など、地方ごとに大会を実施していました。本来であれば、裁判所の本物の法廷で模擬裁判を行うという特別な経験ができるものでしたので、その点は残念ですが、オンラインで全国の高校と対戦できたことは魅力的でした。
オンラインではありましたが、対戦形式は例年どおり、あらかじめ与えられた事例教材をもとに、検察官として一戦、弁護士として一戦します。審査対象は、証人への尋問・反対尋問、被告人への尋問・反対尋問、論告・弁論です。審査員は、現役の弁護士や検察官、裁判官らはもちろん、教授や報道関係者という法曹関係者のオールスターが務めます。
尋問というのは、実際の弁護士や検察官にとっても決して簡単なものではありません。一見、簡単に、もしくは、適当に聞いているようにも見られるかもしれませんが、実際には周到な準備をして臨んでいます。質問の仕方にも工夫が必要です。
こちら側の証言者には、誘導することは控え、大事なところほどオープンな質問をして、自由にしっかりと本人の口で語ってもらう必要があります。他方で、敵対する証言者への反対尋問では、自由に話させる、なるべく誘導尋問を多用して流れをコントロールしていく必要があります。
法律家であるからと言って全員が上手なものでもありませんし、周到な準備と工夫、経験や試行錯誤があってなせる業なのです。検察官の論告や弁護士の弁論も、言うまでもなく、論理性の高い説得力が求められるもので、これまた非常に難しいものです。
これらの正解のない課題に、法律を知らない高校生たちが挑戦するのですから、それ自体すごいことです。
教材は2ヶ月ほど前から与えられていますので、あらかじめ、刑事裁判のルールを学んだ上で、争点を確認しつつ、何度も集まって議論・検討していきます。事前準備はもちろん大事ですが、それだけでは勝負は決して決まりません。
何よりも難しいのは当日にならないと、実際にどのような証言や供述をするのか、未知の部分があるところです。また質問の仕方によっても答えが変わることがあり、様々なケースを想定しながら準備しつつ、その場で対応していく力が必要であり、それがまた見せ場となります。
このような事前準備のサポートをし、アドバイスをしていくのが支援弁護士の役割です。アドバイスと言っても、答えを教えるわけにはいきません。あくまでも主体は学生たちです。教えたくなっても生徒たちを信じて、我慢我慢!
大事なことは、正解らしきものを与えることではなく、正解がない問題を、学生たちが自分の頭を悩ませ考えてもらうことです。これこそ法教育の本来の主眼であり、これからの時代を生きていく子どもたちに必要な能力と言えるでしょう。
私は、今年も神戸海星女子学院高校の支援弁護士をつとめました。
神戸海星女子は11校中2校のみしか全国大会に進めない予選を見事突破して本戦に進みました。
本戦では、高校2年生5人と1年生12人、計17人の子たちが参加してくれました。これだけ参加してくれるのは、担当の教員の熱意と先輩たちが楽しんで参加し、充実感を味わってくれてきた賜物でしょう。
昨年開催されなかったために、全員が初参加、慣れない中で、最後の最後まで諦めずによく頑張りました。いつものことですが、最後の1週間の比例関数的な伸びは凄まじいものがありました。
午前は、検察官役で福岡の高校と女子校対決。
今年の問題は公務員の収賄罪という実務家にもほとんど経験のないレアもので、高校生にもなじみのない事案でした。特にこのような課題に使われる事案というのは無罪の可能性が相当にある事案であるため、犯罪事実の証明責任を追っている検察官にはなかなか苦しい事案となりがちです。
しかし、そんな中でも粘り強い尋問を繰り広げ、反対尋問で被告人を追い込み、論告で主張をしっかりとまとめあげました。尋問の聞き方も、パワポも使いこなした論告も、決して自己満足で終わらず、裁判員(審査員)を意識したものでした。伝えたいことをただただ言葉にするだけでなく、伝わるような言葉を選び抜いたということです。
本当に、皆さん、堂々とした検察官の威風を備えていました!
どうやったら伝わるかを考え抜くことの大切だを改めて実感しました。
午後は、弁護士役で初参加の大教大附属天王寺と関西対決。
こちらも熱戦で、非常にレベルの高い試合でした。
尋問では、証言者から午前とは違う予想外の答えが出てきましたが、それも事前に想定外を想定していたおかげで、チームで連携して対応することができていました。想定外を想定するリスクマネイジメントはお見事でした。
1年生も、緊張しながらも尋問の重要な部分を担いましたが、そのハードルも見事にクリアしていきました。
論告vs弁論は、アナウンサーvs女優のような名勝負!
弁論は演技も交えた迫力のあるもので、理屈を超えた説得力がありました。これは決して法律家にはない能力で、感動すら覚えるものでした。
そして、審査結果へ!
このような充実した闘いを終えた子たちは、やりきったいい顔をしていました。結果発表の前に、審査員の講評がありましたが、講評では具体的な評価はなんとも判断し難く、一層ドキドキしました。
待ちに待った結果発表。
今年は全国から29校もの参加があったこともあり、順位付けは難しいため、各校を「金賞・銀賞・銅賞」の3ランク付けする形で結果が発表されました。
「金賞とらせてあげて!」と心の中で願いつつも、万が一の時にはどうフォローしようかとドキドキしていました。
結果は、見事、金賞。
結果が告げられた瞬間、舞台上にそろっていた子たちは歓喜で溢れました。
この瞬間を見届けられたことには言葉に表せない歓びを感じました。
この歓びが癖になって、支援弁護士はなかなかやめられません。
法教育の意義とか、日本の未来とか、色々と小難しいことも考えてみたりしますが、
同業の弁護士や高校生に言いたいことはただ1つ。
「絶対楽しいし、つべこべ言わずやってみよう!」