1 意思表示の合致によって成立する契約とそれに基づく互いの義務
改正民法の521条において、契約自由の原則が明記されました。
これはもともと、憲法で保障されている財産権に関し、自分のことは自分で決められるという私的自治の原則から、
誰とどんな契約をするのかは自由であるという考えによるものです。
ただし、自己決定に基づいて、契約が成立すれば、その契約によって債権債務関係が生じ、互いに拘束されることになります。
これが契約の持つ拘束力であり、これから逃れるためには契約を取り消したり、解除するなどの対応を必要となります。
では、契約はどのように成立するのでしょうか。
これは522条1項に書かれています。
すなわち、契約の申込みと承諾によって成立します。
もっと言えば、契約成立に向けた申込みという意思表示がなされ、相手方がこれを承諾する意思表示をすることによって、意思表示の内容が合致し、契約が成立することになるわけです。
ただ、実際の事例問題では、この認定が求められるかどうかはケースバイケースです。
例えば、売買契約を考えてみましょう。
売買で言えば、555条により、代金支払請求権を行使するための要件は「売買契約の成立」となりますが、この法律要件に該当する具体的事実として、問題文に「売買契約を締結した」と記載されていることがあります。この場合は特に検討するまでもなく「売買契約の成立」という法律要件を満たすと考えてよいでしょう。
これに対して、「売買契約を締結した」と記載されてはいない場合は、売買契約の「申込み」とそれに対する「承諾」があったことをしっかりと指摘しなければいけません。
ここでいう「申込み」は、買主と売主のどちらからでも構いません。どちらか一方を指すものではなく、先行してされた売買契約締結に向けた意思表示が「申込み」であり、その条件をそのまま受け入れるものが「承諾」となります。
ここで改めて民法555条を確認してみましょう。次のように書いています。
「(売買)555条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」
「財産権を相手方に移転する」のが売主、「これに対してその代金を支払う」のが買主です。
仮に、売主から契約を申し込むとすれば、「車(財産権)を相手方に移転する」ので「300万円(その代金)を支払」って欲しいという申込みの意思表示をします。ただし、555条の趣旨から、財産権の内容と代金の内容の特定、すなわち、売買目的物の特定と代金額(少なくとも金額が確定できる算定方法)が必要となります。買主としては、この「申込み」を「承諾」するかどうかが問題となり、その条件をのめば「承諾」となり、売買契約の成立が認められることになるわけです。
そして、このようにして売買契約が成立すると、その売買契約の「効力を生じる」(555条)ことになります。
この「効力が生じる」の意味は極めて重要です。
つまり、合致したその意思表示の内容が、そのままお互いの債権・債務となるということを意味します。
その結果、売主は車(財産権)を移転させる義務を負い、買主は300万円(その代金)を支払う義務を負うことになります。
お互いに表示し、合致した意思表示のないように法的に拘束され、その内容に応じた債権と債務を負うことになるわけです。
論文の答案に書くこともなく、短答で問われることもないでしょうが、この点を理解しておくことがとても大切です。
2 具体的によく似ている契約を対比してみよう!
この内容をより理解するために、第6節の使用貸借と第7節の賃貸借を対比して見てみましょう。
(使用貸借)
「第593条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。」
これを見ると、使用貸借の内容は、(ある物の引き渡し)と(その無償使用・収益+終了時の返還)の合意と言うことができます。
そのため、契約が成立した効力として発生する債権・債務関係を見ると、貸主は目的物引渡債務を負い、借主は無償での使用収益権と終了時の返還債務を負うことがわかります。
これに対して、賃貸借はどうなっているでしょうか。
(賃貸借)
「第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けたも物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」
これを見ると、賃貸借の内容は、(ある物の使用及び収益を相手方にさせること)と(これに対する賃料の支払い+終了時の返還)の合意ということができます。
そのため、契約が成立した効力として発生する債権・債務関係を見ると、貸主は、目的物を引き渡せば良いということにはならず、使用収益させる債務を負い、借主はこの使用収益に対する賃料支払債務と終了時の返還債務を負うことになるのです。
この違いは、基本書や予備校本を読めば、もちろん記載されていることではありますが、これは暗記することではなく、
条文の規定ぶりから理解しておかなければいけない内容です。
このような意識を持って、13の典型契約をおさえ、どの契約が出題されたとしても、その本質的内容を踏まえて対応できるようにする必要があります。
追記:契約の基本や条文の読み方について、YouTubeで解説してみました!
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