犯罪加害者への賠償請求を警察庁が放置し一部時効の可能性!

  先日、会計検査院の調査により、警察庁が、犯罪加害者に請求すべき損害賠償金を警察庁が債権管理を怠り、一部が時効になっている旨の報道がありました。 

 

 報道の概要としては以下のとおりです。


朝日新聞NEWS
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 加害者への賠償請求を放置、一部は時効に 犯罪被害者給付金で警察庁(2024/10/18 17:00朝日新聞

「犯罪の被害者や遺族に国から支給される犯罪被害者給付金について会計検査院が調べたところ、加害者に請求するべき損害賠償の手続きを警察庁が放置していたことが分かった。検査院の調査では、加害者側が資産を有する可能性もあったが、手続きの放置で一部は時効にかかる恐れがある。

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 警察庁は検査院に対し、加害者の多くが土地や車などの資産を持っておらず、債権回収の見込みがないとして管理していなかったと説明したという。

 検査院が1838件のうち、17都県警が作成した821件(計約21億円)の資料を確認したところ、78件の計約2.3億円については加害者が資産を有する可能性があった。例えば加害者から暴行を受け、被害者が国から704万円の給付を受けたケースでは、警察本部が作成した資料に加害者に1500万円の貯蓄があるとの記載があった。


 そもそもこれは犯罪被害者給付金という制度をめぐる問題です。

 この給付金は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づいて犯罪被害者に給付されるものです。なお、この制度の仕組みは警察庁が公表しているパンフレットなどをご覧下さい。

 

 そして、同法8条(損害賠償との関係)2項において、「国は、犯罪被害者等給付金を支給したときは、その額の限度において、当該犯罪被害者等給付金の支給を受けた者が有する損害賠償請求権を取得する。」と明記されており、国が被害者に給付金を支給した場合、もともと被害者が持っている権利を国が取得することになります。

 このようにして、給付金を被害者に給付した国は、加害者に対する求償権という権利を有することになりますが、この権利については、2020年4月1日以降、民法上、時効期間は5年とされています。

 

 ここでは、特に時効の内容と意義についてみてみましょう。

 

 2020年4月1日以降、民法改正により、債権は原則として、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年とされており、早く到達する方が基準となって、時効期間が満了することになります(ただし、時効期間が満了したからと言って直ちに債権が消滅するわけではなく、債務者が時効を援用するという意思表示によって初めて消滅することになります。)

 

 他方、改正時の公表された説明資料の通り、犯罪が成立するような場合は、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生することが通常ですが、子の時効は、通常、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為時(=権利を行使することができる時)から20年とされています。ただ、例外的に、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の場合は、知った時から5年(不法行為時からは同様に20年)と延長されています。

民法(債権関係)の改正に関する説明資料
民法(債権関係)の改正に関する説明資料

 そのため、給付金を受領できる犯罪被害者の加害者に対する損害賠償請求権は、生命・身体の侵害による損害賠償請求権として、知った時から5年、権利を行使できる時から20年で時効となります。

 これに対して、国が被害者に給付金を支払った場合、当該金額については加害者に求償することができ、その支払い時=「権利を行使することができることを知った時」にあたるため、支払い時から5年で時効となります。

 

 5年と聞くと長いように感じるかもしれません。

 しかし、問題になるケースというのは、そもそも実際に債権全額を回収することがなかなか難しいケースです。油断をしているとすぐに経過してしまいます。そのため、「時効の管理」という意識、感覚が必要になってきます。

 確かに、債権というものは、いかに権利があっても法律上の手段で回収できなければ、”絵に描いた餅”になります。いくら時効が成立しなくても債務者から回収できなければ結果に違いはありません。ただ、それでも一定期間がたてば、債務者の生活状況が変わり、一定の資産を得る可能性があります(例えば、相続により不動産を取得することも考えられます)。それにも関わらず、時効期間が満了した場合、いくら請求しても、時効を援用されると打つ手なしとなります。可能性がないとは言えない以上、時効だけは成立させないような時効の管理は必要であり、それを業務としているのであれば、必要な対応となってきます。

 なお、ここでは説明は省略しますが、進み出した時効を止めるために、裁判を起こしたり、債務者に債務を承認させたりするなどの対応が考えられます。

 

 ”時効を援用されると打つ手なし”と書きましたが、これは言い過ぎでもありません。

 時効の主張というのはそれだけ強力な主張です。法律上の主張が認められるためには、一定の必要な条件があるのですが、時効の主張の場合、時効期間の経過など、客観的に明らかな事情が多くなります。そのため、他の法律的な主張とは違って、主張された側がなかなか争いようがないことも多く、時効を主張されると諦めざるを得ない可能性が高くなります。

 

 弁護士としても、債権者側から相談を受けた場合、時効が成立していないか、あるいは、時効が近日中に成立するそれがないかということを常に意識しています。逆に、債務者側から相談を受けた場合、最も有利なものとして、時効が成立していると主張し得ないかを考えることになります。また、依頼を受けたにもかかわらず、債権を時効にかけたということになれば、弁護士としては非常に由々しき問題になりかねません。

 

 このような観点から、個人・法人を問わず、誰かに対する債権を持っている場合、たとえ一筋縄では回収できないときであっても、”時効の管理”という意識を持って対応していく必要があります。

 

 なお、報道された上記の事案に関しては、単なる個人や法人の問題ではなく、国民の税金の回収を国がみすみす放棄しているという問題であり、なおさら仮に大半の債権について回収可能性がないとしても、”時効の管理”をしていかなければいけないと言えるでしょう。