“紀州のドン・ファン”と呼ばれる和歌山県田辺市の資産家の方が亡くなった件に関しては、遺言にまつわる民事事件や死因に関する刑事事件などが今も続いています。
そのうち、「全財産を田辺市に寄付する」という内容の遺言書に関し、親族がその有効性を争っていた裁判について、2024年6月21日に1審判決が下されました。
結論としては、社長が生前に書いたとされるについて、和歌山地方裁判所は、遺言書は本人の筆跡だとして、有効とする判決を言い渡しました。
当該事案について、判決書が裁判所のHPで公開されていますので、内容を少し見ておきたいと思います。
判決全文はコチラ
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/214/093214_hanrei.pdf
判決では、本人が遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、押印したかについて、以下の5つの要素を考慮して判断するとしています。
①本件遺言書の筆跡と押印
②本件遺言書の体裁等
③本件 遺言の内容
④法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等
⑤本件遺言書 の保管状況、発見状況等
そして、具体的な事情としては以下のように認定しています。
①遺言書の筆跡と押印:流れるような筆致で筆跡の特徴が似ている・本人が好んで使用していた表現が用いられている・双方の筆跡鑑定の合理性・作成前日に従業員に指示して印鑑登録証明書を発行している
②本件遺言書の体裁等:普段から好んで利用していた赤色サインペン・「イゴン」との記載も普段から平仮名と片仮名や仮名と漢字を混ぜた単語を用いていた
③本件遺言の内容:全財産の田辺市への寄付と会社の清算を依頼する内容についても、長年寄付を行い、億単位の納税をし、発展を望む発言をしてきたことと矛盾しない・他方できょうだいやその子らとも交流を絶ち、きょうだいに財産を譲るつもりはないと表明していた・会社の清算についても、清算を進められ、廃業届を出していたことから不合理ではない
④Aと法定相続人・関係者との関係・遺言の経緯等:このタイミングでこのような遺言を残したことについて、的確に説明することは難しいとして重きを置く事情とは位置づけない
⑤本件遺言書の保管状況・発見状況等:取締役が本人から郵便物を頻繁に受け取っていたところ、その中にあり、ビニール袋のなかに入れたままにしていたが、しばらくは忘れており、思い出してから弁護士に預けて検認したというものであるが、当該取締役の証言は相応に信用できる
結論として、「…本件遺言書の筆跡と押印、本件遺言書の体裁等及び本件遺言書の内容からは、Aが本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、自署の末尾に押印したとみるほかなく、Aと法定相続人、関 係人との関係、遺言の経緯等は、本件遺言書の自署押印の判断で重きを置く事情と位置付けることができず、本件遺言書の保管状況、発見状況等は、A以外 の者による本件遺言書作成への関与をうかがわせる事情とはいえない。」として、遺言の有効性を認めました。
このように本人の筆跡かどうかはもちろん重要ですが、DNA鑑定等とは違って客観的な正確性が担保されるものではないため、体裁や内容、保管状況の合理性が影響することになります。