遺言書の効力と遺留分〜紀州のドンファン殺人事件裁判〜

 

 “紀州のドン・ファン”と呼ばれる和歌山県田辺市の資産家の方が亡くなった件に関しては、13億円余りにのぼると言われる遺産について、遺言にまつわる民事事件や死因に関する刑事事件などが今も続いています。

 

 そのうち、「全財産を田辺市に寄付する」という内容の遺言書に関し、親族がその有効性を争っていた裁判について、2024年6月21日、和歌山地方裁判所は、遺言書は本人の筆跡だとして、有効とする判決を言い渡しました。 詳しくはこちらのブログをご覧ください。

 

 ”紀州のドンファン”、1審(地裁)で遺言書の有効を認める判決!”

 

 ただし、親族側は、遺言書は有効だとする1審の判決を不服として、控訴しており、大阪高等裁判所で審理が続いています。

 

 他方で、9月12日から和歌山地裁で始まった”紀州のドン・ファン”殺人事件の裁判員裁判。2018年5月24日に自宅で急性覚醒剤中毒で死亡した被害者について、妻が起訴され、審理されています。

 こちらの刑事事件について、報道によると、覚醒剤の混入経路や方法までは特定しきれていないようであり、直接証拠もなく、微妙な判断になる見通しです。

 

 

 これら2つの民事と刑事の裁判ですが、判決の内容によって、遺言書と遺産の分け方にも大きく影響します。

 

 仮に、遺言書が有効なものであれば遺産は全財産が田辺市へと寄付されることになります。

 しかし、刑事事件の被告人となっている妻は配偶者として、遺留分権利者になり得ます。そのため、妻が法定相続人としての地位を有する限り、遺留分請求をすることにより、遺産の半分(法定相続分(=100%)の2分の1)を田辺市から取り戻すことができます(なお、兄弟姉妹には遺留分はありませんので、他の親族には遺留分は認められません)。ただし、妻は殺人事件の被告人となっており、もし当該事件の刑事裁判で有罪となった場合、相続人の欠格事由(民法891条「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」)に該当することとなり、相続人としての資格を失い、同時に遺留分の請求をする権利も失うことになります。妻にとっては、刑事事件の判決が刑罰の有無を決めるだけではなく、遺産の取得できるかどうかにも影響する極めて重要な判断になってきます。

 

 他方で、遺言書が無効であるなら、法律に従った法定相続が行われます。故人には子どもがおらず、直系尊属もすでに亡くなられているので、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人となります。この場合の相続分は配偶者である妻が4分の3(75%)、兄弟姉妹が4分の1(25%)となります。配偶者は当然1人ですが、兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪)はその4分の1をさらに兄弟姉妹の人数割りをすることになります。このように見ると、兄弟姉妹等の親族にとっては、遺言書が有効か無効かによって、0かどうか、大きな差が生じることになります。

(そうであるからこそ、親族が民事裁判で遺言書の効力を争っていることがうかがえます。) 

 


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