芸能事務所が廃棄した台本がオークションサイトへ出品?!

 先日、突然、有名作品の台本約250冊がインターネット上のオークションサイトに大量出品されました。

 これについて、女優の有村架純さん(31)が所属する芸能事務所「フラーム」が18日、公式サイトで声明を発表しました。


 「フラームより有村架純に関する報道について」との声明では、(https://www.flamme.co.jp/news20241218/)「台本につきましては、本人の実家で保管しておりましたが、保管スペース確保のため業者の方に機密書類として廃棄を依頼いたしました」と経緯を説明した上で、「その際に一部が転売されていたことは確認できております。思わぬ出来事に本人も胸を痛め、弊社としても困惑している状況です」とし、「現在は、弁護士を通じて当該業者の方に回収を求め、概ね回収できております」と報告しています。

 

 

 この内容によると、有村さんが芸能事務所を通じて機密書類としての廃棄を廃棄業者に委託したにもかかわらず、廃棄業者がそれらをインターネットのオークションサイトで転売しようとしたということです。


 では、このようなケースで、廃棄業者はどのような法的責任を負うでしょうか・・・

 法的にみると、いくつかの責任が問われる可能性があります。

 

①刑事責任:業務上横領罪(刑法第253条)

 廃棄業者が職務上の責任に基づいて台本を保管していたにも関わらず、当該廃棄業者の誰かがこれを不正利用した場合、その行為は業務上横領罪として犯罪行為に該当する可能性があり、刑事罰で処罰される可能性があります。

 

②契約違反(債務不履行)

 廃棄業者は、芸能人またはその所属事務所から、機密書類として適切な方法によって廃棄することを委託されています。また、廃棄を依頼された物品を、適切に取り扱って保管する義務(善管注意義務)も負っているでしょう。

 そのため、こられの台本が、無断でオークションに出品されたことについては、この契約に違反するものとして債務不履行責任を負う可能性が高いでしょう。

 その場合に賠償請求しうる損害の範囲としては、抽象的には信用が毀損された損害や営業上の損害がこれに当たり得ますが、台本が全て回収されたのであれば、具体的に損害がどこまで発生したと言えるか、微妙なところがあるでしょう。

 

③不法行為や使用者責任

 廃棄業者が廃棄を依頼された台本を不正に利用した場合は不法行為にも当たります。これを一部の従業員が行なった場合には、当該従業員はもちろん、会社は使用者責任として損害賠償責任を負うことになりうるでしょう。

 

 

 廃棄業者の責任については、以上のとおりですが、このように見ると、事案としては全く異なりますし、損害額という意味では全く別次元ではあるものの、法的責任の根拠という意味では先日ブログに書いた以下の事案(メガバンクの銀行員が貸金庫から金品等をとった事案)と類似していることがわかります。

 

【参考】

三菱UFJ銀行での貸金庫から金品等窃取事件についての法的責任

https://www.kobengoshi.com/bank/

 

 他方、芸能事務所として何か責任を負うかことがあるでしょうか。

 本来公表してはいけないであろう台本が流出してしまったことからすると、関連会社との関係で責任を問われる可能性は否定はしきれませんが、上記廃棄業者を選定するに当たって、問題があることが容易にわかるような状況であればともかく、過失がなければ実際に責任を負われる可能性は低いでしょう。

 また、現実的にも、台本はすでに回収できたようですので、被害・損害の発生自体も認められない可能性があります。

 

 いずれにせよ、台本というものの特性として、一部の人は機密情報として廃棄を求めるものの、一般的には非常に価値が高いものであり、このようなリスクを想定して廃棄業者を選定し、厳重に注意していく必要があるのでしょう。