1 最高裁による新しい判断と事案
養子縁組前に生まれた子どもが、養子縁組によって兄弟姉妹となった親の相続権を代襲相続できるか問題となった事案で、最高裁は、二審・東京高裁判決を破棄し、「引き継げない」とする判断を示しました。
養子縁組後の遺産、親に代わり相続「できず」最高裁事件・司法(2024年11月12日付日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE0634Q0W4A101C2000000/
当該事案の原告は神奈川県に住む30代と40代の男女でした。原告の母親は2人を生んだ後に自身のおばの養子となり、おばの実子である男性との関係は「いとこ」から「兄妹」に変わりました。その後、母親は2002年に死去し、男性も2019年に亡くなりました。男性に子どもはいなかったため、本来なら妹として母親が遺産を相続するはずでしたが、すでに亡くなっていたため、この子どもたちが亡くなった母親に代わって代襲相続できるかどうかが問題となりました。
最高裁第3小法廷(渡辺恵理子裁判長)は、「引き継げる」とした二審・東京高裁判決を破棄し、「引き継げない」とする判断を示し、原告側の逆転敗訴が確定しました。
判決文が裁判所HPで公開されていますので、全文を読みたい方はこちらからご確認ください。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/490/093490_hanrei.pdf
2 法律上の問題点(養子縁組と兄弟姉妹の子の代襲相続)
法律上の争点がどこにあったか、複雑なため、親族と相続の用語と規定を確認しておきましょう。
まず、直系とは、自分から見て「親・子・祖父母・孫」といった、直接の上下関係にある親族のことを指します。つまり、血縁関係が縦に続いている関係です。一般的に、自分と直系関係にある親族を「直系尊属」(自分より上の世代)と「直系卑属」(自分より下の世代)と呼ぶことがあります。
例:父母、祖父母、子、孫など
これに対して、傍系とは、兄弟姉妹やおじ・おば、おい・めいなど、自分と同じ世代または横に広がる関係にある親族のことを指します。血縁関係はあるものの、自分とは直接の上下関係ではなく、横に広がるような関係です。例:兄弟姉妹、おじ・おば、おい・めいなど
そして、養子縁組をした場合の影響ですが、民法727条に以下の規定があります。
(縁組による親族関係の発生)
第727条 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
普通養子縁組の場合、養親と養子の間で親子関係が生じ、法的な親族関係が成立します。
そして、養子は養親の親族の一員となり、養親の家族(例えば祖父母、兄弟姉妹など)とも親族関係が生じます。
(※普通養子縁組の場合、特別養子縁組と異なり、実親との親族関係も存続します。)
そして、養子縁組前に生まれた子どもに関しては、大審院(最高裁の前身)の判例ですが、養子縁組前に生まれた子どもは新たな親族関係を生じないとしたものがあります。
これを踏まえて、相続に関する規定を見てみましょう。
まずは子どもが相続人になる場合です。これは民法887条に規定があります。
(子及びその代襲者等の相続権)
第887条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
すなわち、子どもが相続人になるべき場合で、すでに当該子どもが亡くなっていた等の場合は、その子どもが代わりに相続することができます(このことを代襲相続といいます)。ただ、例外として、「被相続人の直系卑属でない者」は代襲相続できないとなっており、要するに被相続人の孫でなければ代襲相続できないのです。そのため、被相続人AがBと養子縁組した場合、養子縁組前に生まれたBの子どもはAの直系卑属(孫)にはなりません。
これに対して、兄弟姉妹が相続人になる場合は民法889条に規定があります。
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第889条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
すなわち、兄弟姉妹が相続人となる場合、887条2項が準用され、兄弟姉妹の子による代襲相続が認められています。ただ、準用された場合に、「ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」という部分が、傍系の場合にどのような意味をもつのかは不明です。
そこで、上記判例がこれについて判断を示したということになります。
3 原審の判断と最高裁の判断
前提として、原審(高裁)は、「民法889条2項により同条1項2号の場合に同法887条2項の規定を準用するに当たっては、同項ただし書の「被相続人の直系卑属でない者」を「被相続人の傍系卑属でない者」と読み替えるのが相当であり、本件被相続人の傍系卑属である被上告人らは、Bを代襲して本件被相続人の相続人となることができる。」と判断していました。
これに対して、最高裁は、まず子どもが相続する場合の代襲相続の規定に関して、「被相続人の子が被相続人の養子である場合、養子縁組前から当該子の子である者(いわゆる養子縁組前の養子の子)は、被相続人との間に当該養子縁組による血族関係を生じないこと(民法727条、大審院昭和6年(オ)第2939号同7年5月11日判決・民集11巻11号1062頁参照)から、養子を代襲して相続人となることができないことを明らかにしたものである。」とした上で、「民法889条2項において準用する同法887条2項ただし書も、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親の養子である場合に、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生ずることのない養子縁組前の養子の子(この場合の養子縁組前の養子の子は、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者に当たる。)は、養子を代襲して相続人となることができない旨を定めたものと解される。」としました。
その結果、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないと結論づけました。
必ずしも多くあるケースではありませんが、代襲相続の範囲に一定の制限をかける判断として整理しておく必要があるでしょう。