· 

法律初学者や起業家・ビジネスマン向け!今さら聞けない、株式会社の仕組みを学ぼう!!


1 法律上の「人」は人間だけじゃない!

 

 日本語で人と言うと、普通、生物学上の「ヒト」(人間)を意味するかと思います。

 

 しかし、法律上は必ずしもそうは言えません。法律において言葉の意味=定義は、その法律によって異なるので注意が必要です。一見、一義的な言葉でも、解釈が必要な場合があるのです。

 

 例えば、刑法199条には殺人罪が規定されていますが、ここで言う「人」とは人間を意味します。ただ、いつからいつまでがここで保護される人間に当たるかは解釈する必要があります。

 これに対して、民法や会社法上の「人」には人間以外に、「法人」と言うものが含まれます。これは、そもそも人間=自然人が法律上の権利や義務の主体(権利や義務をもてる地位にあるということ)になるところ、便宜上、権利や義務の主体となることができる地位を法律が認めた者が「法人」です。まさに「法」が認めた「人」です。「法人格」が与えられていると言う言い方もします。

 

 このようなフィクション(=擬制)によって、会社やNPOなどの法人が、個人とは別に、独自の権利義務の主体となるものです。

法人は独自に取引をしたり、お金を借り入れたりすることができ、倒産する時も、原則として代表者個人とは分けられるわけです。

(もちろん代表者が個人として責任を負うがために、会社とともに破産する場合も多いわけですが。)


2 世は大航海時代、香辛料を求めて出資し、儲けは山分け!

 
 株式会社の原型として、歴史上有名なのが東インド会社です。
 欧米諸国がインドより東方面に、高値で売れる香辛料を求めてこぞって船に乗り出した、世は大航海時代!
 ただ、何隻航海に出て、何隻無事に戻ってこれるかどうかと言う時代。
 出資を募って船や船員を準備し、うまく香辛料を持ち帰れれば売上げを分け合うと言う仕組みができあがりました。
 当時、イギリスでも東インド会社が設立されましたが、こちらはあくまで単発の航海、一回ごとの航海の旅に出資を募って、成果をあげればその利益を分けました。これは株式会社とは明らかに別物です。
 むしろ、株式会社の起源はオランダ東インド会社です。こちらは出資者を募って利益を分け合うのは同じですが、10年スパンで、事業を継続し、10年間のトータルの利益を計算し、いくら分けるかを決めることになっていました。その上、その10年縛りも絶対に待たなければいけないものではなく、出資者はその権利自体を売り渡すことができました。
 これこそ、まさに株式会社のもととなる形態です。
 その特性は、事業の継続性、出資者の責任の有限性、株式の自由譲渡性にあります。これこそ株式会社の本質的な要素です。
 このような形態で設立・運営されることにより、お金を出資した上流階級の出資者=所有者と、実際に航海を仕切る船長ら=経営者が分離され、経営は船長らに委任されることになります。
 
 このように株式会社というのはもともと、所有と経営が完全部分離され、株式は自由に譲渡され、利益が配当されるものです。ただ、後でも述べるように、設立したての会社や親族経営の中小企業では、株式の譲渡制限がかかっている非公開会社となるのが通常であり、取締役や監査役を務める親族らが株主となることも多く、所有と経営はあまり分離していません。

3 株式会社って誰のもの?経営者が自由にできるの?

 株主が出資した資金をもとに設立され、事業を行うのが株式会社です。この出資した資金が会社の資本となります。この資本は返済が不要であることに大きな特徴があります。ここは返済しなければならない負債とは大きく違うところです。

 

 会社の財務三表として、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書がありますが、このうち貸借対照表はある時点のお金の調達方法(右側)とお金の使い途(左側)を示すもので、損益計算書は1年間の会社の成績表のようなものです。この貸借対照表の右側に返済が不要な資本と返済が必要な負債が記載されます。

 この自己資本比率が高いことは企業にとって重要な要素です。

 

 あくまでも会社の所有者は株主と位置付けられ、会社にとって最も重要な存在となります。そのため、会社の基本的なあり方を決めるのはあくまでも株主総会です。監査役や取締役などの役員も株主総会で選任され、委任されることになります。取締役が構成する取締役会などで代表取締役が選任されることになりますが、その代表取締役とて、株主らから委任されて会社経営を行う存在に過ぎません。

 そして、会社の従業員はそのような会社との間で雇用契約を結ぶ存在と言うことです。

 もちろん実態としては、代表者が経営方針を自由に決め、株主総会はそれを追認するに過ぎないと言うこともあるでしょうが、あくまでも法律上の株式会社における位置づけを整理しておきましょう。

 出資者たる株主は、会社の所有者という立場から、協力な権利が認められることになります。

 この権利は1株から認められます。1株でも役員らを相手どって株主代表訴訟を提起することができるのは非常に大きな権利で、役員らとしても軽視できるものではありません。そうであるからこそ、少数であったとしても、株主が誰かと言うことに非常に大きな意味があり、親族等で経営する中小企業をはじめ、見ず知らずの第三者が株主となっては困る会社は株式の譲渡制限をかけ、非公開会社となります。

 

 このように少数でも強力な権利を持つ株主ですが、その割合が3分の1を超え始めると会社経営そのものに大きな影響を与える立場になります。すなわち、3分の1を超えると、その株主の意向を無視しては特別決議を得ることは物理的に不可能になります。

その割合が高まれば高めるほど、その株主の意向にそう方針しかとれなくなります。完全に会社を支配していく立場となります。

 ベンチャー企業などが資金調達のために、やむなく株式の多くを第三者に譲りわたすこともありますが、大きな影響力を持つことに注意が必要でしょう。

 


4 会社といえば、全部株式会社??

 

 会社といえば、株式会社の知名度が高いですが、最近増えているのは合同会社です。

 日本ではまだ知名度が低いですが、アメリカではLLCという有限責任会社の形態が多く利用されており、似たかたちが日本にも導入されました。

 シンプルでもあり、所有と経営が一致していることから、Google、Amazon、Appleの日本法人もこの合同会社となっています。

 起業するにあたっても、合同会社の方が設立費用が安く済むため、十分に利用価値があります。知名度が低いので、信頼度を高めるために株式会社とする場合も多いですが、例えばエステなど店舗経営をする場合には、店の名前を別途つけるため、合同会社を積極的に利用することも考えられるでしょう。

 

 これに対して、株式会社については、大企業を中心とした公開会社では、基本的に所有と経営が分離されており、株式は自由に譲渡されます。誰が株主になっても文句は言えないわけです。「敵対的買収」や「モノ言う株主」も、公開会社としては、本来受け入れなければいけない仕組みと言えるでしょう。他方、設立したての会社や親族経営の中小企業では、株式の譲渡制限がかかっている非公開会社となるのが普通です。取締役や監査役を務める親族らが株主となっていることも多く、株主総会も形式的なものであったりします。このような場合は、株式会社の本来の理念とは違い、所有と経営はあまり分離していません。

 

 現在の会社法がこの大きく違う2つの会社を対象としつつ、意識的に分けながら規定を設けていることは意識しておきましょう。