高校生模擬裁判選手権に長年出場していた元京都教育大附属高校で教鞭をとり、現在は龍谷大学の准教授となられた札埜和男先生からお声掛けいただき、西宮東高等学校で実施された文学模擬裁判の講評をさせていただきました。
文学模擬裁判というのは、文学作品を題材として、刑事事件として立件し、模擬裁判をするというものです。時代背景や登場人物のキャラなどにも想いを馳せつつ、人間理解をしていく面白さがありますね。
札埜先生が過去にオンラインで開催した第2回高校生模擬裁判選手権(題材は芥川龍之介の短編小説『藪の中』)の模様はコチラをご覧ください。
以前、高校生模擬裁判選手権の支援弁護士としても関わらせていただいたことのある西宮東高校。久しぶりに訪問させていただきました。
学校には計3回いきました。
①弁護士の仕事と刑事裁判の解説、②生徒らによる文学模擬裁判の傍聴、③裁判員らの評議への立ち合いと講評です。
生徒たちもはじめは困惑しながらも、最終的には前向きに取り組んでくれました。
特に裁判員らの評議は短い時間ながらも、意見を出しあえて、非常によかったです。
今回の題材は『羅生門』です。
退廃した京都の街。身寄りもなく、天涯孤独で、仕事も失った被告人が、羅生門で遺体から髪の毛を奪っていた老婆を見つけ、飢えをしのぐために老婆から着物を剥ぎ取ったという事件。
強盗罪が成立するか、するとして、緊急避難(過剰避難)が成立しないかというのがテーマでした。
時間にも限りがあるので、法律をガチガチでやることよりも、筋道立てて多角的に考えてもらうことが大切でした。
特に、裁判官や裁判員の評議をみていて、生徒さんたちに感心したのがこの3点です。
まず、1つ目は、事実経過を整理していくという話になったものの、どう進めていいかわからなくなったときに、1人の裁判官役の子の「まずは争いがない事実から確認していこう」という発言です。これで一気に評議が進み事実の確認ができていきました。
2つ目は、緊急避難の4要件を検討しているときに、1人の子が、「本当に飢え死にしないためなら着物ではなく、髪の毛を奪うはずだし、自分の正義のためにやったから、緊急避難は成立しないんじゃないか」と指摘したことです。これで皆さん、なるほど!となって緊急避難も過剰避難も否定されることになりました。
3つ目は、緊急避難などが成立しないこととなり、そのままでは懲役刑となる議論の流れの中で、1人の子が「被告人の生い立ちとか、同期を考えたらもっと軽くしてもいいのではないか」と指摘したことです。被告人を懲役刑にして刑務所に入れるべきかという具体的なイメージが共有され、これで一気に評議の流れもかわり、最終的に執行猶予となりました。
このような生徒さんたちがぞれぞれしっかり考えた意見を持ち、それを伝えて、評議を進めた姿には非常に感心しました。それぞれの指摘が鋭いものでした。また、被告人を懲役にするのか、執行猶予にするのかという点でも、しっかりと人の人生を決める重みを感じて考えてくれました。素晴らしい想像力でした。
文学模擬裁判ならではの時代背景や設定をおさえつつ、さらにその文学性から人間の行動や心理により踏み込んでいけることが面白みの1つであると感じました。