驚くべきことに、銀行の行員が貸金庫から金品等を4年以上にわたって窃取していたことが判明しました。一般の方々の銀行への信頼を悪用したものと言わざるを得ない事案です。
「三菱UFJ銀行 貸金庫の金品窃取で頭取ら陳謝“管理体制に不備” 」
(2024年12月17日 6時07分NHKニュース)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241217/k10014669661000.html
「三菱UFJ銀行の行員が支店の貸金庫から十数億円相当の金品を盗み取っていたことをめぐり、銀行の半沢淳一頭取らが16日に会見し、貸金庫の鍵の管理体制に不備があったことを認めたうえで陳謝しました。半沢頭取は、再発防止策を具体化する中で、みずからの処分についても検討するとしていて、経営責任の明確化も焦点となります。」
報道によると、練馬支店や玉川支店で、支店長代理などの管理職の立場にあった40代の行員が4年半にわたって支店の貸金庫を無断で開け、中に入っている金品を盗み取っていたとのことです。銀行は、被害額は時価にして十数億円になるとし、11月にはこの行員を懲戒解雇したようです。
顧客が銀行の貸金庫に預けた金品等を銀行員に盗まれた場合、法律上の責任としては以下の内容が考えられます。
①銀行員の刑事責任
銀行員の行為が刑法に違反する場合、刑事責任を問うことができます。
業務上横領罪(刑法第253条):貸金庫の管理が銀行員の職務の一環である場合、業務上横領罪として扱われる可能性があります。
報道によると、上記事案ではすでに銀行から懲戒処分は受けているようですが、刑事事件にはなっていないように見受けられます。今後、被害者が具体的に特定され、被害者が被害届や告訴等をしていくことにより刑事事件になっていくことが想定されるでしょう。
なお、被害者としては、刑事事件化し、捜査機関による強制的な捜査をしてもらうことで、後述する損害の詳細(被害品や金額)を特定できる可能性があります。
②被害者に対する銀行と銀行員の民事責任(損害賠償請求)
被害者は、銀行または当該銀行員に対して損害賠償請求を行うことができます。
❶契約上の債務不履行責任(民法第415条)
貸金庫に関する契約に基づき、銀行には顧客から預けられた財産を安全に管理する義務があります。銀行員による窃取はこの義務の不履行にあたるため、銀行に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求できます。
なお、貸金庫に関する契約書に、銀行の責任範囲が制限されている旨が記載されている場合もありますが、重大な過失や違法行為が認められる場合にはその制限きてが無効である旨主張する余地があるでしょう。
❷不法行為責任(民法第709条)と使用者責任(民法第715条)
銀行員の行為が不法行為に該当するため、直接、銀行員に対して損害賠償を請求することもできます。
加えて、銀行員が業務中に犯した犯罪であれば、銀行も使用者責任(民法第715条)を負うことになるでしょう。
③銀行法上の責任
銀行はその業務において顧客の信頼を守る義務があります。貸金庫の安全管理に重大な過失があった場合、金融庁などの監督機関に報告することで、行政指導や制裁措置がとられる可能性もあります。
法的責任は以上のとおりですが、このうち、現実的な被害者救済としては②が問題となります。
銀行がどのような体制で補償にあたるのか、現時点では不明ですが、1番の壁は損害額の立証の問題です。
貸金庫は対外的なセキュリティは強固である一方で、実際に何を預けているかは利用している顧客しか知らないのが一般的です。
そのため、何が盗まれたかについては、窃取した行員の供述と被害を受けた顧客の供述を突き合わせていくことになりますが、当該行員がどこまで記憶しているのか疑問です。すでに懲戒解雇により退職しているため、どこまで協力するかも未知数です。
その意味で、刑事事件化して捜査してもらうことによって、被害・損害を具体化していくということも考えられるでしょう。
行員の供述が曖昧な場合には、被害者の供述をもとに立証していくほかありません。
現金や金品等について預けたことまでは立証が困難でも、せめて当時存在していた資料(例えば、引き出した通帳や金品の購入履歴など)を提出しつつ、合理的な経緯を主張していくことで、銀行側に補償対象を認めさせていくことになるでしょう。
裁判になれば厳密な立証が求められますが、ただでさえ立証困難な事案である上、管理体制の不備を考慮し、銀行の信頼回復のためにも一歩踏み込んで、積極的な補償体制をとることを期待するところです。