2022年8月6日、昨年に引き続き、高校生模擬裁判選手権@オンラインが開催されました。
新型コロナウィルスの第7波が到来しており、今年も法廷での直接対決は叶いませんでしたが、オンラインであるからこその全国大会が開催されました。
兵庫県から本戦に出場したのは、予選を抽選でパスし、もはや常連の強豪校になりつつある神戸海星女子高等学校と、数年ぶりに参戦し、競争激しい予選を突破してきた底力ある灘高等学校の2校でした。
もともと兵庫県からは、神戸女学院高等学校、兵庫県立神戸高等学校、西宮市立西宮東高等学校、神戸大学附属高等学校含む合計6校がエントリーしていました。そして、神戸海星女子はラッキーにも抽選で予選をパスし、抽選に外れた関西12校での予選大会が開かれました。この中から本戦に出場できるのは2校のみという非常に狭き門でしたが、ここを突破してきたのが底力ある灘高等学校と以前から強豪校であった大阪の同志社香里高等学校でした(同校HPの記事)。
対戦形式は例年どおり、あらかじめ与えられた事例教材をもとに、検察官として一戦、弁護士として一戦します。審査対象は、証人への尋問・反対尋問、被告人への尋問・反対尋問、論告・弁論です。審査員は、現役の弁護士や検察官、裁判官らはもちろん、教授や報道関係者という法曹関係者のオールスターが務めます。
詳しい内容は、日弁連の募集ページをご参照ください。
尋問というのは、実際の弁護士や検察官にとっても決して簡単なものではありません。一見すると、簡単になんとなく聞いているようにも見られるかもしれませんが、実際には周到な準備をして臨んでいます。尋問は準備が全てと言っても過言でないぐらい、事前の準備が大切です。ただ、これは当日現場での対応が不要であることを意味していません。あくまでも事前に準備をしっかりすることで、時系列や証拠の内容が頭に入り、当日の受け応えの内容を受けて瞬時に臨機応変な対応ができるということです。
また、質問の仕方にも工夫が必要です。
こちら側の見方となる証言者には、誘導することは控え、大事なところほどオープンな質問をしていく必要があります。主尋問では原則として誘導尋問は禁止されています。大事なところは、自由にしっかりと本人の口で語ってもらうことで、より正直に話をして信用してもらうためでもあります。
他方で、敵対する証言者への反対尋問では、むしろ適宜誘導尋問をすべきです。自由に話をさせるとこちらには都合の悪いい方や言い訳を自由にさせるkとになってしまいます。そこで、なるべく誘導尋問を多用して答えの選択肢をあらかじめ狭め、回答と流れをコントロールしていくことになります。
また、尋問で引き出した事実をもとに、双方の主張をしていく検察官の論告・弁護士の弁論も非常に考えごたえのあるものです。証拠に基づいてなされなければいけませんし、論理性の高い説得力が求められます。高校生ならではの発想力やプレゼン力なども反映されるところで非常に面白い部分でもあります。
これらの正解のない課題に、法律を知らない高校生たちが挑戦します。
教材は2ヶ月ほど前から与えられていますので、あらかじめ、刑事裁判のルールを学んだ上で、争点を確認しつつ、何度も集まって議論・検討していきます。事前準備はもちろん大事ですが、それだけでは勝負は決して決まりません。
特に本来の裁判とは違って、こちらの味方側の証人とも事前に打ち合わせができません。これは各学校が検察側も弁護側も行うことになるため、公平を期するためのルールです。
そのため、当日にならないと、実際にどのような証言や供述をするのか、未知の部分があります。これがしかも、なかなか重要なポイントについて、当日にならないとわからないのです。また、時に被告人役や証人役のキャラの違いによって、質問の仕方で答えのニュアンスが変わることがあります。、事前に、様々なケースを想定しながら準備しつつ、その場で対応していく力が必要であり、それがまた大きな見せ場となります。
今年は支援弁護士ではなかったので、昨年支援した神戸海星女子学院高校を応援しました。
昨年、初オンライン大会で見事金賞を受賞した成果か、今年は昨年以上に人数が集まり、神戸海星女子が得意とするチームプレーが発揮されていました。もはや同校の伝統行事になりつつあるのかもしれませんが、一重に担当教員の熱意と先輩たちの毎年の充実度でしょう。夏休みを迎える風物詩でもあり、終わったあとは祭りのあとです。
今年は昨年1年生として、先輩たちの活躍を間近で見てきた子たちが2年生となって躍動していました。それぞれの個性も活かしつつ、チームとしても補い合っていたように感じました。
午前の試合は検察官チームから。
模擬裁判選手権では、午前である程度要領や内容がわかる分、どうしても午前の試合が難しく、午後が仕上がってきます。
犯罪事実の立証責任を負う検察官役では、客観的証拠に基づく主張をしっかりと展開させる必要があるのですが、ここがなかなか難しいのです。
今年の問題は元恋人に対する脅迫罪だったようです。
思うような回答ではなかった部分もあったようですが、粘り強い尋問を繰り広げていました。被告人は実際にそうであるように、こちらの反対尋問にはなかなかまともに答えてくれませんでしたが、淡々と粘り強く質問していました。
論告では、言葉に詰まる瞬間もありましたが、これはただ原稿を読むだけではなく、読みながらも自分の頭で考えている何よりの証拠。時間が足りない中でもしっかりとまとめ上げていました。
午後の支配は弁護人チーム。
初出場だった学習院女子高等科との関西・関東女子校対決となりました。
こちらも熱戦でした。1年生も堂々とした主尋問をして、2年生につなげていました。反対尋問ではリレー方式で、見事に伏線をはりながら回収していきました。
弁論では内容が充実し、抑揚つけた話し方もよかったですが、さらに直前に言われた検察官の論告についても言及していました。これはアドリブ力がないと対応できませんし、実際の法廷での弁論でもなかなかできることではありません。
充実した闘いを終えた子たちは、やはりやりきったいい顔をしていました。
今年は全国から昨年を超える30校もの参加があり、この中から8校が表彰されることになりました。
結果は残念ながら昨年に続いての表彰とはなりませんでした。
2年連続で賞を取るのはなかなか難しいことです。でも、だからこそ挑戦しがいがあるのかもしれませんし、先輩から後輩へ引き継がれていくものがきっとあるのでしょう。
生徒たちが、「やり切ったので、結果に悔いはない。」と言っていたのが印象的でした。
彼女たちが全力でやり切ったからこそのことでしょう。
スラムダンクの”負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる”というセリフを思い出しました。
彼女たちのこれからの人生が楽しみです。